【第5回】SSRI・SNRIとは?セロトニン系抗うつ薬の効果と副作用を解説|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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【第5回】SSRI・SNRIとは?セロトニン系抗うつ薬の効果と副作用を解説

【第5回】SSRI・SNRIとは?セロトニン系抗うつ薬の効果と副作用を解説|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2025年7月21日

SSRI・SNRIとは?セロトニン系抗うつ薬の効果と副作用を解説
セロトニンと薬物療法

前回は、セロトニンを自然に増やす方法について解説しました。今回は、医療現場で使用されるセロトニン系薬物の仕組みと、過剰摂取によるリスクについて詳しく見ていきます。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

SSRIは現在最も広く使用されている抗うつ薬の一つで、脳内のセロトニントランスポーターを阻害し、シナプス間隙のセロトニン濃度を上昇させることで抗うつ作用を発揮します。代表的な薬剤にはフルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラムなどがあります。

POINT

SSRIはうつ病、全般性不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSDなど多くの精神疾患に対して第一選択薬とされており、米国FDAではフルオキセチンとエスシタロプラムが小児・思春期うつ病にも承認されています。

主要なSSRI

一般名 商品名 主な特徴・適応症 半減期
フルボキサミン ルボックス/デプロメール OCDに特に有効。日本・米国でOCDに承認 約15.6時間
パロキセチン パキシル 主要5大不安障害(OCD・PD・SAD・GAD・PTSD)に承認 約21時間
セルトラリン ジェイゾロフト 副作用が比較的少ない。OCD・不安障害・うつ病に承認 約26時間
エスシタロプラム レクサプロ 高い選択性・忍容性。GAD・MDDに承認 27-32時間
重要な補足

  • フルボキサミン:OCDに対する有効性が高く、強迫性障害の第一選択薬の一つ
  • パロキセチン:主要な不安障害すべてに承認されており、不安症状が強い患者に適している
  • セルトラリン:副作用プロファイルが良好で、初回治療に選択されることが多い
  • エスシタロプラム:高い選択性と忍容性を持ち、多くの患者で良好な治療効果が期待できる

SSRIの作用機序

  1. セロトニントランスポーター(SERT)の阻害
    神経終末でのセロトニン再取り込みをブロック
  2. シナプス間隙のセロトニン濃度上昇
    即座に濃度は上昇するが、治療効果は2-4週間後
  3. 受容体の下方調節(長期効果)
    5-HT1A自己受容体の感受性低下
  4. 神経可塑性の促進
    BDNF(脳由来神経栄養因子)の増加

SSRIの副作用

初期副作用(1-2週間)

  • 消化器症状:吐き気・嘔吐(一般的に20-30%)、下痢または便秘(10-20%)
  • 中枢神経系:頭痛(20%)、めまい(10%)
  • 睡眠関連:不眠または傾眠(15-20%)
  • 賦活症状:不安、焦燥感(特に若年者で注意)

長期副作用

  • 性機能障害(30-40%):治療継続の主要な障壁
  • 体重増加(15-25%)
  • 感情鈍麻(10-20%)

⚠️ 重要な注意

24歳未満では自殺念慮・自殺行動リスクがわずかに増加する可能性があり、米国FDAはブラックボックス警告を義務付けています。投与初期や増量時は特に注意深い観察が必要です。

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

SNRIは、セロトニンに加えてノルアドレナリンの再取り込みも阻害し、両神経伝達物質の濃度を上昇させる薬物です。SSRIで十分な効果が得られない場合や、疼痛合併例などで選択されます。

中等度から重度のうつ病では、SNRI(特にベンラファキシンやデュロキセチン)がSSRIよりもやや高い寛解率を示す可能性が示唆されていますが、その差は限定的です。

重要:副作用による中止率は高く、特に消化器症状や性機能障害が治療継続の障壁となることが多いです。

主要なSNRI

一般名 商品名 特徴 半減期
ベンラファキシン イフェクサー 高い抗うつ効果・高用量で血圧上昇注意 5時間(活性代謝物11時間)
デスベンラファキシン プリスティーク 薬物相互作用が少ない 11時間
デュロキセチン サインバルタ 疼痛にも効果・肝機能注意 12時間
ミルナシプラン トレドミン 日本で開発・最もバランス良い阻害 8時間

適応疾患

  • 大うつ病性障害:第一選択薬の一つ
  • 全般性不安障害:特にベンラファキシン
  • 慢性疼痛:線維筋痛症、神経障害性疼痛(デュロキセチン)
  • 更年期障害に伴う症状:ホットフラッシュなど

SNRIの追加副作用

SSRIの副作用に加え、高用量での血圧上昇、発汗、頻脈などノルアドレナリン作用に起因する副作用がみられます。低用量から開始し、2週間ごとに漸増することが推奨されます。

その他のセロトニン系薬物

5-HT1A受容体部分作動薬

アリピプラゾール(エビリファイ)

  • 統合失調症、双極性障害の治療
  • うつ病の増強療法として使用
  • ドーパミン系にも作用する非定型抗精神病薬

5-HT2受容体拮抗薬

トラゾドン(デジレル)

  • 睡眠障害を伴ううつ病に有効
  • 低用量で睡眠薬として使用
  • 性機能への副作用が少ない

5-HT3受容体拮抗薬

オンダンセトロン(ゾフラン)

  • 制吐薬として使用
  • 化学療法による嘔吐の予防
  • 術後の悪心・嘔吐の治療
セロトニン症候群:過剰な場合のリスク

セロトニン症候群とは

セロトニン症候群は、体内のセロトニン濃度が異常に高くなることで発症する、潜在的に生命に関わる重篤な状態です。この症候群は、セロトニン作動性薬物の過量摂取や、複数のセロトニン系薬物の併用によって引き起こされることが多いです。

症状の分類と重症度

重症度 症状 頻度
軽度 – 振戦(手の震え)
– 発汗過多
– 散瞳(瞳孔の拡大)
– 軽度の興奮状態
比較的多い
中等度 – 筋肉の硬直
– 高体温(38-40℃)
– 頻脈(心拍数の増加)
– 血圧上昇
– 反射亢進
要注意
重度 – 高度の体温上昇(40℃以上)
– 意識レベルの低下
– 痙攣発作
– 横紋筋融解症
– 急性腎不全
生命に危険

原因となる薬物の組み合わせ

⚠️ 特に危険な組み合わせ

  • SSRI + MAO阻害薬:最も危険な組み合わせ
  • SSRI + トリプタン系片頭痛薬:注意が必要
  • 複数のSSRI/SNRIの併用:避けるべき
  • SSRI + 5-HTPサプリメント:医師に相談
  • SSRI + リネゾリド(抗生物質):MAO阻害作用あり
薬物療法を受ける際の注意点

服薬開始時の注意

  • 低用量から開始:副作用を最小限に
  • 効果発現まで時間がかかる:2-4週間は継続が必要
  • 初期悪化の可能性:最初の1-2週間は症状が悪化することも
  • 定期的な診察:効果と副作用の評価

併用薬の確認

医師に必ず伝えるべきこと

  • 他の医療機関で処方された薬
  • 市販薬の使用
  • サプリメント(特にセントジョーンズワート、5-HTP)
  • 漢方薬
  • アルコールの摂取状況

中止時の注意

離脱症状を防ぐために

  • 急な中止は避ける:離脱症状のリスク
  • 医師の指導の下で漸減:2-4週間かけて減量
  • 離脱症状:めまい、頭痛、不安、イライラ、電撃様感覚
  • 症状の再発に注意:中止後も経過観察が必要
POINT

セロトニン系薬物は効果の発現に時間がかかるため、最初の数週間で効果を感じなくても諦めずに継続することが重要です。また、勝手に中止すると離脱症状が起こる可能性があるため、必ず医師と相談して治療計画を立てましょう。

まとめ

セロトニン系薬物は、適切に使用すれば多くの精神疾患に対して有効な治療法です。SSRIおよびSNRIはうつ病・不安障害の第一選択薬であり、効果と副作用プロファイルを考慮して個別に選択することが重要です

しかし、セロトニン症候群のような重篤な副作用のリスクもあるため、医師の指導の下で適切に使用することが重要です。薬物療法は、前回解説した生活習慣の改善と組み合わせることで、より効果的な治療となります。

次回予告:

次回は、セロトニンと他の神経伝達物質との相互作用や、社会的行動への影響について、最新の研究成果を交えて解説します。


よくある質問
Q. SSRIを飲み始めてすぐに効果が出ないのですが、なぜですか?
A. SSRIは脳内のセロトニン濃度を高めますが、治療効果が現れるまでには2-4週間かかります。これは、受容体の調節や神経可塑性の変化に時間が必要だからです。効果を感じなくても、医師の指示に従って継続することが重要です。
Q. セロトニン症候群の症状が出た場合、どうすればよいですか?
A. 手の震え、発汗、体温上昇、筋肉の硬直などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。セロトニン症候群は生命に関わる場合があるため、緊急性が高い症状です。薬の服用を中止し、救急外来に向かいましょう。
Q. サプリメントと抗うつ薬を併用しても大丈夫ですか?
A. セントジョーンズワートや5-HTPなどのサプリメントは、抗うつ薬と相互作用を起こす可能性があります。併用前に必ず医師に相談し、すべての服用中のサプリメントを報告してください。
Q. SSRIの副作用はいつまで続きますか?
A. 吐き気や頭痛などの初期副作用は1-2週間で軽減することが多いです。しかし、性機能障害や体重増加などの副作用は長期間続く場合があります。副作用が気になる場合は医師と相談し、薬の変更や減量を検討しましょう。

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監修・執筆者

片山 渚 医師

五反田ストレスケアクリニック院長

  • 精神保健指定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
  • 健康経営アドバイザー

大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。

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