双極性障害(躁うつ病)は、気分の極端な変動を特徴とする精神疾患です。通常の気分の浮き沈みとは異なり、高揚感や活動性が極端に増す「躁(そう)状態」と、意欲や興味の著しい低下を伴う「うつ状態」を繰り返します。この記事では、双極性障害の症状、種類、原因から治療法、生活上の工夫まで、精神科医の視点から詳しく解説します。

双極性障害
双極性障害
双極性障害(躁うつ病)は、気分の極端な変動を特徴とする精神疾患です。通常の気分の浮き沈みとは異なり、高揚感や活動性が極端に増す「躁(そう)状態」と、意欲や興味の著しい低下を伴う「うつ状態」を繰り返します。この記事では、双極性障害の症状、種類、原因から治療法、生活上の工夫まで、精神科医の視点から詳しく解説します。
双極性障害は、全世界で人口の約1-2%が経験する慢性的な精神疾患です。日本においても同様の有病率が報告されており、決して珍しい病気ではありません。適切な治療を受けなければ、日常生活や社会生活に深刻な影響を及ぼし、自殺リスクの上昇につながる可能性もある重要な健康課題です。
双極性障害は主に以下の3つのタイプに分類されます。
双極性障害の症状は、躁(軽躁)状態とうつ状態で大きく異なります。
軽躁状態は躁状態よりも症状は軽度ですが、パターンは類似しています。
双極性障害の症状は個人によって大きく異なり、同じ人でも時期によって症状のパターンが変化することがあります。また、躁状態とうつ状態が混在する「混合状態」を経験する人もいます。
双極性障害は発症から適切な診断までに平均8-10年かかるとされており、早期発見と適切な治療の開始が重要です。特に初回エピソードがうつ状態で始まることが多いため、うつ病と誤診されるケースも少なくありません。
以下のような場合は、双極性障害の可能性を考慮した専門医の診察が望ましいでしょう。
早期発見と適切な治療により、症状の管理が容易になり、再発や合併症のリスクを軽減できる可能性が高まります。
双極性障害の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
遺伝的要因
双極性障害には強い遺伝的要素があります。家族の中で双極性障害の診断を受けた人がいる場合、その他の家族メンバーの発症リスクは高まります。特に一卵性双生児では、片方が双極性障害を発症した場合、もう片方も発症するリスクが約40-70%に達するという研究結果もあります。
脳の構造と機能
脳画像研究では、双極性障害を持つ人と持たない人との間で脳の構造や機能に違いがあることが示されています。特に感情調節に関わる脳領域(辺縁系)や衝動制御に関わる前頭前皮質に差異が見られることがあります。
神経伝達物質の不均衡
セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンなどの神経伝達物質のバランスの乱れが、気分障害の発症に関連していると考えられています。これらの化学物質は気分、エネルギーレベル、認知機能の調節に重要な役割を果たしています。
環境的トリガー
遺伝的素因を持つ人では、以下のような環境要因が双極性障害の発症や再発のきっかけとなる可能性があります。
これらの要因が複雑に絡み合って、双極性障害の発症と経過に影響を与えると考えられています。
双極性障害の診断は、詳細な臨床面接、症状評価、病歴の確認、場合によっては心理検査などを通じて行われます。日本では主にICD-10(国際疾病分類第10版)の診断基準が用いられますが、研究や臨床現場ではDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の基準も参考にされています。
診断プロセスでは以下の点が重要視されます。
正確な診断のためには、患者本人だけでなく、可能であれば家族や近しい人からも情報を得ることが重要です。双極性障害は気分の変動が特徴であるため、患者自身が躁状態やその影響を適切に認識できていないことがあるためです。
双極性障害の治療は通常、薬物療法、心理療法、生活習慣の改善を組み合わせた包括的なアプローチで行われます。長期的な管理が必要な慢性疾患であり、症状が安定した後も継続的な治療が推奨されています。
双極性障害の薬物療法では、主に以下の種類の薬剤が使用されます。
薬物療法と並行して行われる心理療法は、症状管理、再発予防、生活の質の向上に役立ちます。
日常生活でのセルフケアは症状管理と再発予防に不可欠です。
双極性障害は慢性疾患ですが、適切な治療と自己管理により、多くの人が充実した生活を送ることが可能です。以下は日常生活での実践的なヒントです。
躁状態やうつ状態の前兆を早期に認識することで、悪化を防ぐための対策を講じることができます。
躁状態の警告サイン
うつ状態の警告サイン
これらのサインに気づいたら、担当医に連絡し、対処計画に従うことが重要です。
双極性障害の管理には、強力なサポートシステムが不可欠です。
ストレスは双極性障害の症状を悪化させる主要な要因です。
双極性障害は複雑で挑戦的な疾患ですが、科学の進歩により理解と治療法は着実に改善しています。早期発見、適切な治療、そして継続的な自己管理により、多くの人々がこの障害を持ちながらも充実した人生を送ることが可能です。
重要なのは、双極性障害は治療可能な疾患であり、診断は人生の終わりではなく、むしろ回復への第一歩であるということです。正確な情報、適切な治療、そして周囲のサポートがあれば、双極性障害の症状をコントロールし、自分らしい人生を取り戻すことができます。
以下のような場合は、専門医への相談を検討してください。
早期介入ほど効果的な治療につながることを忘れないでください。もし心配なことがあれば、遠慮なく当院にご相談ください。あなたの状況に合わせた適切なサポートを提供します。
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