2025年6月03日

引っ越しや職場の異動などで、かかりつけの医療機関を変える必要が生じたとき、「紹介状をお持ちですか?」と聞かれて戸惑ったことはありませんか?
精神科や心療内科では、他科に比べて「紹介状」の重要性が高く、しばしば持参を求められることがあります。
本記事では、精神科医の視点から「紹介状とは何か」「なぜ精神科で必要とされるのか」「紹介状がないとどんな問題が起きるのか」などを、わかりやすく解説していきます。

紹介状とは、以前通っていた医療機関の医師が、現在の病状や治療経過を記した書類のことです。正式名称は「診療情報提供書」と呼ばれ、次の主治医へと情報を引き継ぐ大切な医療文書です。
紹介状に書かれる内容(例):
- 現在の診断名(例:うつ病、パニック障害など)
- これまでの治療経過(通院期間、治療方針など)
- 処方されている薬とその効果・副作用
- 検査結果(心理検査、血液検査など)
- 生活背景や環境因子(仕事、家庭など)

医療現場には、「後医(こうい)は名医」という言葉があります。これは、「後から診る医師のほうが、より的確な判断がしやすい」という意味です。
これをたとえるなら、「後出しジャンケンが強い」のと同じ。前医の治療経過や反応、副作用などを把握できる後医は、情報量に基づいてより安全かつ効果的な治療を提案できます。

精神科では、薬の種類や処方量の管理が極めて重要です。特に向精神薬(抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬など)の中には、依存性や副作用のリスクがあるものも含まれます。
多重処方とは?
複数の医療機関から同系統の薬を処方され、結果として処方量を超えるケースを指します。
例:Aクリニックで抗不安薬を30日分、Bクリニックでも30日分 ⇒ 実質60日分を所持
このような事態を避けるためにも、紹介状で診療履歴と服薬内容を明示することが求められます。

紹介状がないからといって、必ずしも診療を断られるわけではありませんが、以下のようなリスクが生じます:
- 診断に必要な情報が不足し、治療方針の決定が遅れる
- 重複検査や薬の見直しが必要になり、コストや時間がかかる
- 安全上、必要な薬が処方されないことがある
紹介状は、自分自身を守るための”医療のパスポート”とも言える存在です。

精神科の治療では、心身の状態を長期的に見守り、必要に応じて薬や治療方針を調整します。そのため、複数の医療機関を並行して受診することは原則避けるべきです。
紹介状によって前医と後医がつながることで、通院の一貫性と安全性が守られるのです。
当院では紹介状のある方はもちろん、初診の方にも丁寧なヒアリングを行っております。
安全な処方のためにも、可能な限り紹介状をご持参ください。
紹介状は単なる紙ではなく、前医と後医をつなぐ「治療の連携ツール」です。
転院や再受診の際には、ぜひ紹介状をご準備のうえ、安心してご相談ください。
監修・執筆者
片山 渚 医師
五反田ストレスケアクリニック院長
- ✓ 精神保健指定医
- ✓ 日本医師会認定産業医
- ✓ 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
- ✓ 健康経営アドバイザー
大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。