2025年6月28日

📋 目次
- 📋
セロトニンの多様な機能 - 📋
気分と感情の調節 - 📋
睡眠と概日リズムの調節 - 📋
食欲と消化機能の調節 - 📋
疼痛の調節 - 📋
認知機能と記憶 - 📋
よくある質問 - 📋
まとめ
前回は、セロトニンの基本的な性質と生成メカニズムについて解説しました。今回は、セロトニンが私たちの心身にどのような影響を与えているのか、その多様な機能について詳しく見ていきましょう。
セロトニンが「幸せホルモン」と呼ばれる最も重要な理由は、気分と感情の調節における中心的な役割にあります。脳内のセロトニンレベルの低下は、以下のような精神症状と強く関連しています:
セロトニン低下と関連する精神疾患
- うつ病:世界で約2億8千万人が罹患する深刻な疾患
- 不安障害:パニック障害、全般性不安障害、社会不安障害など
- 強迫性障害(OCD):反復的な思考や行動パターン
- 摂食障害:拒食症、過食症などの食行動異常
モノアミン仮説によると、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の不足が、これらの精神疾患の病因に関与していると考えられています。
セロトニンは睡眠の質と概日リズムの維持において重要な役割を果たします。日中に産生されたセロトニンは、夜間にメラトニンに変換され、自然な睡眠を促進します。
セロトニンからメラトニンへの変換プロセス
- 日中:光刺激によりセロトニン産生が促進
- 夕方:セロトニンからメラトニンへの変換開始
- 夜間:メラトニンによる睡眠誘導
セロトニン不足は、以下のような睡眠障害を引き起こす可能性があります:
- ✅ 不眠症
- ✅ 早朝覚醒
- ✅ 睡眠の質の低下
- ✅ 日中の過度な眠気
体内のセロトニンの約90%が消化管に存在することからも分かるように、セロトニンは消化機能において極めて重要な役割を果たしています。
過敏性腸症候群(IBS)などの機能性消化管疾患では、セロトニンの代謝異常が関与していることが知られています。
セロトニンは中枢神経系において重要な鎮痛システムの一部として機能します。下行性疼痛抑制系において、セロトニンは脊髄レベルで痛みの伝達を抑制する作用があります。
セロトニンと慢性疼痛
慢性疼痛患者では、しばしばセロトニンレベルの低下が観察され、これが痛みの慢性化や増悪に関与している可能性があります。以下の疾患では、セロトニン系の機能異常が病態に関与していると考えられています:
- 線維筋痛症
- 慢性疲労症候群
- 慢性頭痛・片頭痛
- 関節リウマチ
セロトニンは学習と記憶の形成にも重要な役割を果たします。特に以下の認知機能に影響を与えます:
セロトニンが影響する認知機能
- 作業記憶
- 短期間の情報保持と処理
- 長期記憶の固定化
- 新しい情報の長期記憶への移行
- 注意力と集中力
- 選択的注意と持続的注意の維持
- 実行機能
- 計画立案、問題解決、意思決定
セロトニン不足は、記憶力の低下、集中力の欠如、決断力の低下などの認知症状を引き起こす可能性があります。
セロトニンは単なる「幸せホルモン」ではなく、私たちの心身の健康を多面的に支える重要な神経伝達物質です。気分や感情の調節だけでなく、睡眠、食欲、痛みの感覚、認知機能など、日常生活のあらゆる側面に影響を与えています。
これらの機能が適切に働くためには、セロトニンレベルが適正に保たれている必要があります。
次回予告:
次回は、セロトニン不足がもたらす具体的な症状と、精神疾患との関係について詳しく解説します。自分の心身の状態を理解し、適切な対処法を見つけるための重要な知識となるでしょう。
セロトニン完全ガイド シリーズ記事
- 【第1回】セロトニンとは何か?幸せホルモンの基礎知識を精神科医が解説
- 【第2回】セロトニンの効果と機能|睡眠・食欲・痛みへの影響を徹底解説(現在の記事)
- 【第3回】セロトニン不足の症状チェック|うつ病・不安障害との関係を解説(準備中)
- 【第4回】セロトニンを増やす方法10選|食べ物・運動・生活習慣の改善法(準備中)
- 【第5回】SSRI・SNRIとは?セロトニン系抗うつ薬の効果と副作用を解説(準備中)
- 【第6回】セロトニンとドーパミンの関係|脳内物質の相互作用を科学的に解説(準備中)
- 【第7回】セロトニン研究の最新情報2025|測定方法と将来の治療法(準備中)
📚 参考文献
- Berger, M., Gray, J. A., & Roth, B. L. (2009). The expanded biology of serotonin. Annual Review of Medicine, 60, 355-366.
- Cowen, P. J., & Browning, M. (2015). What has serotonin to do with depression? World Psychiatry, 14(2), 158-160.
- Mohammad-Zadeh, L. F., Moses, L., & Gwaltney-Brant, S. M. (2008). Serotonin: a review. Journal of Veterinary Pharmacology and Therapeutics, 31(3), 187-199.
- Yohn, C. N., Gergues, M. M., & Samuels, B. A. (2017). The role of 5-HT receptors in depression. Molecular Brain, 10(1), 28.
- Boyer, E. W., & Shannon, M. (2005). The serotonin syndrome. New England Journal of Medicine, 352(11), 1112-1120.
- Meltzer, H. Y. (1999). The role of serotonin in antipsychotic drug action. Neuropsychopharmacology, 21(2), 106S-115S.
⚠️ 免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としており、医学的アドバイスに代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療専門家にご相談ください。
👨⚕️ 監修・執筆者
片山 渚 医師
五反田ストレスケアクリニック院長
- 精神保健指定医
- 日本医師会認定産業医
- 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
- 健康経営アドバイザー
大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。