【第6回】セロトニンとドーパミンの関係|脳内物質の相互作用を科学的に解説|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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【第6回】セロトニンとドーパミンの関係|脳内物質の相互作用を科学的に解説

【第6回】セロトニンとドーパミンの関係|脳内物質の相互作用を科学的に解説|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2025年7月28日

【第6回】セロトニンとドーパミンの関係|脳内物質の相互作用を科学的に解説


【第6回】セロトニンとドーパミンの関係|脳内物質の相互作用を科学的に解説

セロトニンと他の神経伝達物質の相互作用

前回は、セロトニン系薬物の作用機序と注意点について解説しました。今回は、セロトニンが他の神経伝達物質と多層的に相互作用し、私たちの社会的行動や年齢・性別による違いにどう影響するかを、最新の研究知見とともに見ていきます。[1]

POINT

重要なポイント:セロトニン系は「機能低下」や「機能亢進」といった単純な分類ではなく、脳の部位や受容体の種類、病気の状態によって複雑に調節されています。同じ病気でも症状によって異なる仕組みが関わるため、治療も個別化が重要です。

ドーパミンとの関係

セロトニンとドーパミンは複雑な相互作用を示し、互いの機能を調節しています。

相互作用のメカニズム

脳内での相互作用

  • 状況に応じた調節:セロトニンは脳の部位や状況に応じて、ドーパミンの働きを調節します[1]
  • 行動制御への影響:判断力や衝動制御に重要な前頭葉で協調的に働きます
  • 複数の物質との連携:ドーパミン以外にも、様々な脳内物質と連携して働きます

臨床的意義

疾患 セロトニン系 ドーパミン系 治療への応用
統合失調症 複雑な調節異常(部位・受容体により異なる)[2] 中脳辺縁系で過活動(陽性症状)、前頭前野で低下(陰性症状)[2] 非定型抗精神病薬(5-HT2A受容体拮抗+D2受容体拮抗)[2]
パーキンソン病 セロトニン神経がL-DOPAを異常なドーパミンに変換[3,4] 著明な低下 L-DOPAとSSRIの併用はジスキネジア悪化リスクのため慎重投与[3,4]
ADHD 調節異常(治療反応や併存症に影響)[14] 機能低下(ノルアドレナリンとともに) 主にドーパミン・ノルアドレナリン系を標的、セロトニン系のバランスも重要[14]

ノルアドレナリンとの関係

セロトニンとノルアドレナリンは、気分調節において協調的に作用します。

共通する機能と相互作用

共通する機能

  • 抗うつ効果:両方の低下がうつ病に関与
  • 不安調節:恐怖と不安の処理に協同
  • 覚醒レベルの調節:睡眠-覚醒サイクルの制御

相互調節のメカニズム

  • 青斑核(ノルアドレナリン)と縫線核(セロトニン)の相互投射
  • ストレス反応における協調的な働き
  • 前頭前皮質での統合的な機能

治療への応用

  • SNRI:両方の再取り込みを阻害し、重症例での相乗効果が報告されています
  • 三環系抗うつ薬:非選択的だが両系に作用
  • 併用療法:SSRIとノルアドレナリン系薬物の組み合わせ

GABAとの関係

GABA(γ-アミノ酪酸)は主要な抑制性神経伝達物質で、セロトニンと密接な相互作用を示します。

相互調節メカニズム

回路レベルでの相互作用

脳領域 相互作用 機能的意義
扁桃体 セロトニンが不安を和らげる脳内物質(GABA)の働きを助けます 不安・恐怖の軽減
海馬 GABAがセロトニン放出を調節 記憶と情動の統合
前頭前皮質 両系の協調による抑制制御 実行機能と衝動制御

臨床的応用

  • 抗不安薬との併用:ベンゾジアゼピン系薬物とSSRIの相補的効果
  • 抗痙攣薬の気分安定作用:GABA機能増強によるセロトニン系への影響
  • 睡眠薬との相互作用:両系の協調による睡眠改善

GABAとセロトニンの相互作用メカニズムを3Dアニメーションで詳しく解説

セロトニンと社会的行動

社会性とコミュニケーション

セロトニンは社会的行動において重要な役割を果たします。

人とのつながりへの影響

  • 他人への敏感さ:セロトニンは他人の感情や表情を読み取る能力に影響します[15]
  • 学習能力:人から学んだり、集団に適応したりする力を支えます
  • 共感力:他人の気持ちを理解し、思いやりのある行動を促します

協調性への影響

  • 協力する気持ち:チームワークや協力行動を促進します
  • 親しみやすさ:人との親密な関係を築く力を支援します
  • 経験による変化:良い人間関係を経験すると、セロトニンの働きも良くなります

攻撃性と衝動性

セロトニンと攻撃行動の関係

多くの研究により、セロトニン系の機能異常が攻撃性や衝動性と関連することが一貫して報告されています[5,6]

  • 髄液中5-HIAA(セロトニン代謝産物)の低値:衝動的・暴力的行動や自殺企図の既往と有意に関連することが複数の研究で示されています[5]
  • 5-HT1B受容体の機能低下:動物モデルおよびヒトの研究で、衝動的攻撃行動との関連が示唆されています[8]
  • 前頭前皮質のセロトニン機能低下:神経画像研究により、衝動制御障害との関連が報告されています[7]

注意:セロトニン系と攻撃性の関係は単純な因果関係ではなく、個体差・環境要因・他の神経系との相互作用も重要であることが指摘されています[6]。また、メタアナリシスでは効果量は小さく、測定法や対象集団によるばらつきもあります[6]

セロトニンと年齢・性別の関係

発達段階による変化

乳幼児期(0-3歳)

  • 脳回路の発達:セロトニンが脳の配線形成やシナプス可塑性に重要な役割を果たします[9,10,11]
  • 社会性の基盤形成:愛着形成や情動調節の基礎が築かれます
  • 前頭前皮質の発達:将来の情動制御や社会的行動の基盤となります

思春期(12-18歳)

  • 性ホルモンとの相互作用:エストロゲンなどがセロトニン機能を増強します
  • 前頭前皮質の成熟:セロトニン受容体の再編成が起こります
  • 精神疾患発症のピーク:セロトニン系の脆弱性が関与することが示唆されています

成人期(20-60歳)

  • 慢性ストレスの影響:長期的なストレスがセロトニン機能に影響します
  • 生活習慣の重要性:運動、食事、睡眠がセロトニン機能を左右します
  • 認知機能の維持:加齢による変化の始まりにセロトニンが関与します

高齢期(60歳以上)

  • セロトニン2A受容体の減少:メタアナリシスで有意な減少が確認されています[13]
  • セロトニントランスポーターの減少:加齢に伴い数が有意に減少します[13]
  • 情動・認知機能への影響:対人ストレス対処の変化に関与します

性差による違い

生理学的差異

項目 男性 女性
セロトニン1A受容体 前頭前皮質では低い、他の部位では高い 全般的に男性より高い結合能(前頭前皮質では低い場合も)[12]
セロトニントランスポーター 加齢とともに減少 加齢とともに減少、女性ホルモンの影響を受けやすい
トリプトファン代謝・合成 比較的安定 より変動しやすく、女性ホルモンの影響を受けやすい[15]

疾患の性差

  • うつ病:女性の生涯有病率は男性の約2倍と報告されています(女性21.3%、男性12.7%)
  • 不安障害:女性に1.5-2倍多いことが示されています
  • 摂食障害:女性に圧倒的に多い(90-95%)

エストロゲン・プロゲステロン・テストステロンがセロトニン機能に与える影響を詳しく解説

ホルモンの影響

ストレスへの反応の男女差

  • 孤立の影響:一人でいることが続くと、男女でセロトニンへの影響が異なります
  • ストレス対処法:女性は人に助けを求めがち、男性は一人で解決しようとしがち
  • 薬の効き方:セロトニン系のお薬の効果や副作用に男女差があります

ホルモンとの関係

  • 女性ホルモン(エストロゲン):セロトニンの働きを良くして、気分を安定させます
  • 生理周期のホルモン:月経前後でセロトニンの働きが変わります
  • 男性ホルモン(テストステロン):攻撃性や競争心に関わるセロトニンの働きと関係します

まとめ

セロトニンは単独で機能するのではなく、ドーパミン、ノルアドレナリン、GABAなど他の神経伝達物質と複雑に相互作用しながら、私たちの心と体の機能を調節しています。

また、社会的行動や攻撃性の制御にも重要な役割を果たし、年齢や性別によってその機能には違いがあることが分かっています。これらの知見は、個人差を考慮した治療アプローチの重要性を示しています。

次回予告

次回は最終回として、セロトニン研究の最新動向と将来の治療応用について、測定方法も含めて詳しく解説します。

よくある質問
Q. セロトニンとドーパミンはどんな関係ですか?
A. セロトニンとドーパミンは、お互いに影響し合いながら働いています。セロトニンはドーパミンの働きを調節する役割があり、気分や行動のコントロールで協力しています。統合失調症やパーキンソン病などの治療でも、この関係が重要になります。
Q. セロトニンは人とのつながりにどう影響しますか?
A. セロトニンは他人の表情を読み取ったり、共感したり、協力したりする能力に重要な影響を与えます。また、攻撃的な気持ちを抑える働きもあります。セロトニンが不足すると、イライラしやすくなったり、人との関係がうまくいかなくなることがあります。
Q. セロトニンの働きに男女差はありますか?
A. はい、セロトニンの働きには男女差があります。女性の方がセロトニンを受け取る部分を多く持っていますが、女性ホルモンの影響を受けやすいという特徴があります。そのため、うつ病や不安障害は女性の方が約2倍多く、お薬の効果にも差が出ることがあります。
Q. 年齢によってセロトニンの働きは変わりますか?
A. はい、年齢とともにセロトニンの働きは変化します。赤ちゃんの頃は脳の発達に重要で、思春期は体のホルモンバランスの影響を受けやすくなります。年を取ると、セロトニンを受け取る部分や運ぶ仕組みが減ってくるため、気分や記憶力に影響が出ることがあります。
Q. セロトニンが足りないと攻撃的になりやすいのですか?
A. 多くの研究で、セロトニンの働きが低下すると攻撃性や衝動性が高まりやすいことが示されています。特に、セロトニンの分解産物が少ない人や、セロトニンの受け皿(受容体)の働きが悪い人で、衝動的な行動が起こりやすいとされています。ただし、これは単純な関係ではなく、個人差や環境、他の要因も大きく影響します。

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監修・執筆者

片山 渚 医師

五反田ストレスケアクリニック院長

  • 精神保健指定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
  • 健康経営アドバイザー

大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。

参考文献
  1. Kapur S, Remington G. Serotonin-Dopamine Interaction and Its Relevance to Schizophrenia. Am J Psychiatry. 1996;153(4):466-76.
  2. Meltzer HY, Li Z, Kaneda Y, Ichikawa J. Serotonin receptors: their key role in drugs to treat schizophrenia. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2003;27(7):1159-72.
  3. Muñoz A, Lopez-Lopez A, Labandeira CM, Labandeira-Garcia JL. Interactions Between the Serotonergic and Other Neurotransmitter Systems in the Basal Ganglia: Role in Parkinson’s Disease and Adverse Effects of L-Dopa. Front Neuroanat. 2020;14:26.
  4. Miguelez C, Benazzouz A, Ugedo L, De Deurwaerdère P. Impairment of Serotonergic Transmission by the Antiparkinsonian Drug L-Dopa: Mechanisms and Clinical Implications. Front Cell Neurosci. 2017;11:274.
  5. Stanley B, Molcho A, Stanley M, et al. Association of Aggressive Behavior With Altered Serotonergic Function in Patients Who Are Not Suicidal. Am J Psychiatry. 2000;157(4):609-14.
  6. Duke AA, Bègue L, Bell R, Eisenlohr-Moul T. Revisiting the serotonin-aggression relation in humans: a meta-analysis. Psychol Bull. 2013;139(5):1148-72.
  7. da Cunha-Bang S, Knudsen GM. The modulatory role of serotonin on human impulsive aggression. Biol Psychiatry. 2021;90(7):447-457.
  8. Nautiyal KM, Tanaka KF, Barr MM, et al. Distinct circuits underlie the effects of 5-HT1B receptors on aggression and impulsivity. Neuron. 2015;86(3):813-26.
  9. Brummelte S, Mc Glanaghy E, Bonnin A, Oberlander TF. Developmental changes in serotonin signaling: implications for early brain function, behavior and adaptation. Neuroscience. 2017;342:212-231.
  10. Lesch KP, Waider J. Serotonin in the modulation of neural plasticity and networks: implications for neurodevelopmental disorders. Neuron. 2012;76(1):175-91.
  11. Ogelman R, Gomez Wulschner LE, Hoelscher VM, et al. Serotonin modulates excitatory synapse maturation in the developing prefrontal cortex. Nat Commun. 2024;15(1):1368.
  12. Moses-Kolko EL, Price JC, Shah N, et al. Age, sex, and reproductive hormone effects on brain serotonin-1A and serotonin-2A receptor binding in a healthy population. Neuropsychopharmacology. 2011;36(13):2729-40.
  13. Karrer TM, McLaughlin CL, Guaglianone CP, Samanez-Larkin GR. Reduced serotonin receptors and transporters in normal aging adults: A meta-analysis of PET and SPECT imaging studies. Neurobiol Aging. 2019;80:1-10.
  14. Faraone SV, Ward CL, Boucher M, Elbekai R, Brunner E. Role of Serotonin in Psychiatric and Somatic Comorbidities of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Systematic Literature Review. Neurosci Biobehav Rev. 2025;:106275.
  15. Pais ML, Martins J, Castelo-Branco M, Gonçalves J. Sex differences in tryptophan metabolism: A systematic review focused on neuropsychiatric disorders. Int J Mol Sci. 2023;24(6):6010.

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。

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