2025年6月15日

「診断書をもらったら会社は休職させてくれるの?」
この疑問を持つ方は多いでしょう。結論から言うと、診断書があっても必ず休職できるとは限りません。
- 診断書は医師の「意見書」
- 最終判断は会社が行う
- 医師は医学的見地からの推奨事項を記載
- 会社には安全配慮義務がある
- 従業員の健康を守る法的責任
- 適切な対応を取らない場合は労基署への相談も可能
- 就業規則が判断基準
- 各会社の休職制度による
- 代替案(配置転換・時短勤務等)が提示される場合も
診断書は医師法に基づく証明書類ですが、職場の実情(業務内容・人員配置・繁忙期など)は医師には分かりません。そのため、医学的判断+職場環境の総合的検討が必要となります。

2023年の衝撃的な数字
- 年間延べ受診者数:約603万人
- 15年前と比較して約1.6倍に増加
- 「ストレスが健康リスク」と考える人:5.0%→15.6%(3倍増)
項目 | 2023年度 | 前年比 |
---|---|---|
パワハラ被害経験率 | 19.3% | -12.1pt |
総合労働相談件数 | 121万件 | 高止まり |
いじめ・嫌がらせ相談 | 全体の25% | 12年連続1位 |
注目すべき点:パワハラ防止法の効果で減少傾向にあるものの、依然として5人に1人がパワハラを経験している現実があります。
- メンタル休職者がいる事業場:10.4%
- 労働者全体に占める休職者割合:0.6%
- メンタル不調による退職者がいる事業場:6.4%
これらの数字は「決して他人事ではない」ことを物語っています。
精神科医として、適切な診断書には以下が記載されるべきです:
例:「うつ病のため、現在は就労困難な状態」
良い例:「通常業務の70%程度から開始し、3週間後に段階的増量」
悪い例:「軽作業のみ可能」(曖昧で判断困難)
例:「治療継続により、約3か月後の復職を目標とする」
- 最終的な休職期間:会社の就業規則による(ただし会社の予定・計画もあるので主治医は具体的な日付を記載する場合あり)
- 給与の支払い:労働契約・就業規則の定めによる
- 配置転換の可否:業務上の判断事項
- 解雇の回避:労働法上の別問題

立場 | 主な役割 | 判断範囲 |
---|---|---|
主治医 | 医学的診断・治療方針決定 | 病状に基づく就労可否 |
産業医 | 職場環境と健康の両面評価 | 業務適性・配慮事項の助言 |
会社 | 最終的な人事判断 | 休職・復職・配置の決定 |
復職可否は以下3つの基準で総合判断されます:
- 判断ポイント:元の職務を100%遂行できるか
- 目安期間:復職後6か月以内に通常レベルへ
- よくある失敗:「8割程度なら…」という甘い見積もり
- 判断ポイント:フルタイム勤務が安定継続できるか
- チェック項目:
- 遅刻・早退なく勤務できる
- 残業対応が可能
- 通院のための中抜けが不要
- 判断ポイント:症状が十分軽快し、再発可能性が低いか
- 重要な視点:環境変化(復職)によるストレス耐性
- 医学的根拠:うつ病の場合、発症後6か月〜1年は要注意期間
- 起床・就寝時間の規則性
- 食事・服薬の自己管理
- 集中力の持続時間(最低2時間以上)
- 実際の通勤ルートでの移動練習
- 混雑時間帯での電車利用
- 職場周辺での外出練習
- 図書館での読書・PC作業
- 短時間のアルバイト・ボランティア
- 人との交流・会話の練習
上司への伝え方例:
「体調不良が続いており、医師の診察を受けたところ、治療に専念する必要があると言われました。一度、人事の方とご相談させていただけますでしょうか」
- 医師への依頼時のポイント:
- 業務内容を具体的に説明
- 職場環境(残業時間・人間関係等)を伝達
- 希望する休職期間があれば相談
- 就業規則の休職制度を確認
- 必要書類の準備(診断書・申請書等)
- 業務の引き継ぎ計画作成
- 月1回程度の状況報告が一般的
- 治療経過の概要報告(詳細は不要)
- 復職意欲・時期の相談
- 主治医との復職可否相談
- 復職診断書の作成依頼
- 段階復職プランの検討
良い回答例:
「主治医からは症状が十分改善し、就労可能と判断されています。服薬は継続していますが、副作用もなく日常生活に支障はありません」
避けるべき回答:
「まだ完全ではありませんが…」(不安を与える)
良い回答例:
「主治医と相談し、再発予防のための対策を講じています。定期通院を継続し、ストレス管理法も身につけました」
良い回答例:
「段階的復職をお願いできれば、3か月程度で元の業務レベルに戻れると主治医からも意見をいただいています」
A. 診断書は医師の意見であり、会社に休職を強制する効力はありません。ただし、会社には従業員の安全配慮義務があります。
対処法:
- 人事担当者と再度面談を依頼
- 産業医面談があれば積極的に受ける
- 配置転換・時短勤務等の代替案を相談(先の通り、こちらも会社の裁量による。会社としてする義務はない。)
- 解決しない場合は労働基準監督署や労働局へ相談
A. 多くの会社では無給が一般的です。ただし以下の制度が利用可能な場合があります:
- 傷病手当金:健康保険から給与の約3分の2を最大1年6か月受給
- 有給休暇:残日数があれば消化可能
- 会社独自の見舞金制度:就業規則を確認
A. 再発=即解雇ではありません。以下の対応が一般的です:
- 産業医による再評価
- 業務負荷の調整(時短・業務量減少)
- 再休職制度の利用
- 配置転換の検討
ただし、休職期間満了までに復職できない場合は退職となる可能性があります。
A. 一概には言えません。リモートワークでも以下の点に注意が必要です:
メリット:
- 通勤ストレスの軽減
- 環境調整の自由度
デメリット:
- 孤立感・コミュニケーション不足
- 自己管理能力への依存
- 上司によるフォローアップの困難さ
- 会社として特例を作ってしまいかねない
- 診断書は出発点であり、ゴールではない
- 医師の意見を基に、会社との対話を開始
- 職場の実情との調整が不可欠
- 復職は段階的に進める
- 「業務・労務・健康」3基準の継続的確認
- 6か月程度の中期的視点での計画立案
- 再発予防が最重要課題
- 早期復職よりも持続可能な働き方の構築
- 主治医・産業医・職場の三者連携
メンタルヘルス不調での休職は、決して「失敗」や「挫折」ではありません。むしろ、自分の健康と向き合う貴重な機会として捉えていただきたいと思います。
適切な治療と段階的な復職プロセスを経ることで、以前よりも健康的で持続可能な働き方を見つけられる方も多くいらっしゃいます。
一人で悩まず、医療チーム・職場・家族など、周囲のサポートを積極的に活用してください。
【参考文献】
- 厚生労働省『令和5年 患者調査 概況』(2024年)
- 厚生労働省『個別労働紛争解決制度の施行状況(令和5年度)』(2024年)
- 厚生労働省『労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況』(2023年)
- 厚生労働省『過労死等の労災補償状況』(令和5年度速報)
- 厚生労働省『職場のハラスメントに関する実態調査』(令和5年度)
- 厚生労働省『2024年版 厚生労働白書』トピックス
- 高尾総司『健康管理は従業員にまかせなさい – 労務管理によるメンタルヘルス対策の極意』日本法令(2021年)
五反田ストレスケアクリニック院長
- ✓ 精神保健指定医
- ✓ 日本医師会認定産業医
- ✓ 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
- ✓ 健康経営アドバイザー
大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。
最終更新日:2025年6月14日