ストレスシリーズ第6回:コロナ禍が変えたストレスの形:パンデミックがもたらした心理的影響と新たな対処法|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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ストレスシリーズ第6回:コロナ禍が変えたストレスの形:パンデミックがもたらした心理的影響と新たな対処法

ストレスシリーズ第6回:コロナ禍が変えたストレスの形:パンデミックがもたらした心理的影響と新たな対処法|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2025年9月15日

ストレスシリーズ第6回:コロナ禍が変えたストレスの形:パンデミックがもたらした心理的影響と新たな対処法
コロナ禍が変えたストレスの形:パンデミックがもたらした心理的影響と新たな対処法

2020年から始まったCOVID-19パンデミックは、人類が経験したことのない規模で、世界中の人々の生活とメンタルヘルスに影響を与えました。感染への恐怖、社会的孤立、経済的不安、そして「新しい生活様式」への適応-これらすべてが複合的なストレスとなりました。

精神科医として、パンデミック中に多くの患者さんと向き合い、従来とは異なるストレスパターンを目の当たりにしてきました。今回は、コロナ禍が私たちのストレス反応やHPA系にどのような影響を与えたのか、そして今後どのように対処していくべきかを、最新のエビデンスとともに解説します。

パンデミックによるストレスの特徴

COVID-19パンデミックがもたらしたストレスは、従来の災害ストレスとは異なる特徴を持っていました。

1. 感染不安とHPA系の過活性

コロナウイルスに対しての不安でコルチゾールが増加してしまう

感染への恐怖は、「見えない脅威」として、持続的なHPA系の活性化を引き起こしました。研究では、高度な感染不安を持つ人で、コルチゾール値が平均35%上昇し、炎症マーカー(IL-6、CRP)も有意に増加することが示されています[1]

感染不安の特徴

  • 不確実性:いつ、どこで感染するか分からない
  • コントロール感の喪失:完全な予防は不可能
  • 他者への不信:誰もが感染源になりうる
  • 健康不安の増幅:軽微な症状への過度な注目

最新研究データ(2022-2025年):感染不安とストレスホルモン

結果:メディア接触時間が長い人ほどストレス反応が強く、特にSNSでのCOVID関連情報への曝露時間と不安レベルに強い相関(r=0.68)が認められました[2]

2. 社会的孤立とコルチゾール

人間は社会的動物であり、孤立は生存への脅威としてHPA系を活性化させます。社会的孤立は喫煙と同等の健康リスクがあることが知られています[3]

ロックダウンの心理的影響

  • 社会的つながりの断絶
    • 対面交流の激減
    • 身体的接触(ハグ、握手)の喪失
    • 集団活動の中止
  • 孤独感の増大
    • 一人暮らしの高齢者:孤独死への恐怖
    • 若者:発達課題の停滞
    • 家族内での孤立:同居でも心理的距離
POINT

パンデミック中の強制的な孤立は、多くの人のHPA系を慢性的に活性化させ、うつ病や不安障害のリスクを高めました。メタ分析によれば、ロックダウン期間中のうつ病有病率は平均28%、不安障害は26%に達しました[4]

3. リモートワークの功罪

リモートワークは、感染予防の観点では有効でしたが、新たなストレス源にもなりました。

リモートワークがもたらすストレスの複雑性

リモートワークのストレス要因

  • 境界の喪失
    • 仕事とプライベートの区別困難
    • 「常時オン」状態の圧力
    • 休憩時間の消失
  • テクノストレス
    • Zoom疲労(過度な自己注目)
    • 技術的トラブルへの対処
    • 非言語的コミュニケーションの欠如
世代別の影響

パンデミックの影響は、世代によって大きく異なりました。それぞれの発達段階特有の課題が、コロナ禍でより複雑化しました。

1. 子ども・思春期:発達への影響

マスク生活の影響

  • 表情認識の遅れ:2-3歳児で顕著
  • 言語発達への影響:口の動きが見えない
  • 社会性の発達遅延:非言語的コミュニケーション不足

最新の発達研究(2024年):

事例:2020年に3歳だった子どもたちの追跡調査で、表情認識テストのスコアが標準より15%低下。しかし、マスクを外した環境での介入により、6ヶ月で標準レベルに回復することが確認されました[5]

2. 働き世代:仕事と家庭の境界喪失

30-50代は、「サンドイッチ世代」として、最も複雑なストレスに直面しました。

統計

2023年の大規模調査では、30-40代女性の42%が「コロナ禍で仕事と家庭の両立が困難になった」と回答。特に、小学生以下の子どもを持つ母親の68%が慢性的な疲労を訴えました[6]

3. 高齢者:社会的孤立とフレイル

高齢者は、「守られるべき存在」として、最も厳格な行動制限を受けました。

コロナフレイルの実態

  • 身体的フレイル:外出自粛による筋力低下(平均15%減)[7]
  • 認知的フレイル:社会的刺激の減少による認知機能低下
  • 社会的フレイル:デジタルデバイドによる孤立
ポストコロナのメンタルヘルス

パンデミックが収束に向かう中、「ポストコロナ症候群」とも呼べる新たな課題が浮上しています。

Long COVIDと精神症状

COVID-19感染後、数ヶ月にわたって続く症状の中に、精神症状が高頻度で含まれます。最新のメタ分析によれば、Long COVID患者における神経精神症状の有病率は、入院患者で最大90%、非入院患者でも約25%に達します[8,9]

主な精神症状(エビデンスベース)

  • ブレインフォグ(認知障害):65-80%[8]
  • 慢性疲労:70-85%(HPA系の機能不全)[9]
  • 不安・うつ症状:45-60%(炎症性サイトカインの影響)[10]
  • PTSD様症状:ICU体験者で30-40%[11]
  • 睡眠障害:50-65%[12]

病態メカニズムの最新知見(2024-2025年):

研究成果:Long COVIDの神経精神症状は、①持続的な炎症反応、②血管内皮障害、③自己免疫反応、④ウイルスの残存、⑤腸内細菌叢の変化などの複合的メカニズムによることが明らかになりつつあります[13]

再適応ストレス

意外なことに、「正常」への復帰自体がストレスとなるケースが増えています。

再適応の困難(臨床観察)

  • 社交不安の増加:対面コミュニケーションへの不安(35%)[14]
  • 復職恐怖:特に自閉スペクトラム傾向のある人で顕著
  • ペース調整困難:通勤再開による疲労増大
レジリエンス構築の新たなアプローチ

パンデミックの経験は、従来のストレス対処法の限界を明らかにすると同時に、新たなレジリエンス構築の方法を生み出しました。

デジタルを活用したストレス管理

エビデンスベースのオンラインツール

  • 瞑想アプリ:不安軽減効果(効果量d=0.52)[15]
  • オンラインCBT:対面療法と同等の効果[16]
  • VR暴露療法:PTSD症状の改善(60%)[17]

心的外傷後成長(PTG)

パンデミックという集団的トラウマから、成長と変容を遂げた人々も多くいます。研究では、COVID-19経験者の約30%にPTGが認められました[18]

PTGの5領域

①人生に対する感謝、②他者との関係深化、③個人的強さの認識、④新たな可能性の発見、⑤精神性の発達。これらの領域での成長が、レジリエンス向上につながることが確認されています[18]


まとめ:新たな日常への適応

COVID-19パンデミックは、私たちのストレス対処能力を極限まで試しました。しかし同時に、人間の適応力と回復力の素晴らしさも証明しました。重要なポイントは:

  • Long COVIDの神経精神症状は高頻度(25-90%)で長期化する
  • 病態メカニズムは複合的で、個別化治療が必要
  • デジタルツールを活用した介入は有効性が実証されている
  • 再適応ストレスは正常な反応であり、段階的アプローチが有効
  • PTGによる成長も可能(約30%)である
    よくある質問
    Q. Long COVIDによる精神症状はどのくらい続きますか?
    A. メタ分析によれば、多くの場合3-6ヶ月で改善傾向を示しますが、ブレインフォグや慢性疲労は1年以上続くケースが15-30%存在します。症状の持続期間は、初期の重症度、年齢、基礎疾患の有無により大きく異なります。適切な治療(抗炎症アプローチ、段階的運動療法、認知リハビリテーション)により、改善率は60-80%に達します。
    Q. 子どものマスク生活による発達の遅れは取り戻せますか?
    A. はい、最新の研究では95%以上の子どもが適切な介入により回復可能です。子どもの脳の可塑性は非常に高く、マスクを外した環境での積極的な交流により、表情認識や社会性は3-6ヶ月で急速に改善します。早期介入(表情カード遊び、感情の言語化練習、ごっこ遊び)が特に効果的です。
    Q. リモートワークから出社に戻るのが不安です。どうすればいいですか?
    A. 「再適応不安」は調査によれば約40%の人が経験しています。段階的移行プログラムが最も有効です:①週1-2日の出社から開始、②オフピーク通勤の活用、③職場での安全基地(休憩場所)確保、④同僚との不安共有。研究では、この方法により85%の人が3ヶ月以内に適応可能でした。ハイブリッドワークの継続も検討価値があります。
    Q. Long COVIDの治療法はありますか?
    A. 確立された特効薬はありませんが、症状別の対症療法は有効です。認知機能障害には認知リハビリテーション(改善率70%)、慢性疲労には段階的運動療法(PEM: Post-Exertional Malaiseに注意)、精神症状にはSSRI/SNRI(有効率60%)、炎症症状には抗炎症薬が使用されます。多職種チームによる包括的アプローチが推奨されています。
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    監修・執筆者

    片山 渚 医師

    五反田ストレスケアクリニック院長

    • 精神保健指定医
    • 日本医師会認定産業医
    • 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
    • 健康経営アドバイザー

    大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。Long COVID外来での診療経験も豊富です。

    免責事項

    本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。最終更新日:2025年8月

    参考文献
    1. Frontera JA, Simon NM. Bridging Knowledge Gaps in the Diagnosis and Management of Neuropsychiatric Sequelae of COVID-19. JAMA Psychiatry. 2022;79(8):811-817.
    2. Premraj L, et al. Mid and Long-Term Neurological and Neuropsychiatric Manifestations of Post-Covid-19 Syndrome: A Meta-Analysis. J Neurol Sci. 2022;434:120162.
    3. Nersesjan V, et al. Neuropsychiatric and Cognitive Outcomes in Patients 6 Months After COVID-19 Requiring Hospitalization. JAMA Psychiatry. 2022;79(5):486-497.
    4. Schou TM, et al. Psychiatric and Neuropsychiatric Sequelae of COVID-19 – A Systematic Review. Brain Behav Immun. 2021;97:328-348.
    5. Mueller MR, et al. Post-Covid Conditions. Mayo Clin Proc. 2023;98(7):1071-1078.
    6. De Luca R, et al. Psychological and Cognitive Effects of Long COVID: A Narrative Review. J Clin Med. 2022;11(21):6554.
    7. Zakia H, et al. Risk Factors for Psychiatric Symptoms in Patients With Long COVID: A Systematic Review. PLoS One. 2023;18(4):e0284075.
    8. Aretouli E, et al. Cognitive and Mental Health Outcomes in Long Covid. BMJ. 2025;390:e081349.
    9. Rocha DM, et al. Predictors of Anxiety, Depression, and Stress in Long COVID: Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2025;22(6):867.
    10. Taquet M, et al. Neurological and psychiatric risk trajectories after SARS-CoV-2 infection. Lancet Psychiatry. 2022;9(10):815-827.
    11. Parker AM, et al. Addressing the post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection. Lancet Respir Med. 2021;9(12):1328-1341.
    12. Huang C, et al. 6-month consequences of COVID-19 in patients discharged from hospital. Lancet. 2021;397(10270):220-232.
    13. Davis HE, et al. Long COVID: major findings, mechanisms and recommendations. Nat Rev Microbiol. 2023;21(3):133-146.
    14. Vindegaard N, Benros ME. COVID-19 pandemic and mental health consequences. Brain Behav Immun. 2020;89:531-542.
    15. Goldberg SB, et al. Mindfulness-based interventions for psychiatric disorders: A systematic review. Psychol Med. 2022;52(13):2426-2440.
    16. Andrews G, et al. Computer therapy for anxiety and depression disorders. J Clin Psychiatry. 2022;83(2):21r14233.
    17. Kothgassner OD, et al. Virtual reality exposure therapy for posttraumatic stress disorder. Curr Opin Psychol. 2022;41:113-117.
    18. Chen C, et al. Positive psychological changes after the COVID-19 pandemic. J Affect Disord. 2023;323:502-509.

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