ドーパミンシリーズ1:ドーパミンとは?脳の「やる気スイッチ」発見の歴史|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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ドーパミンシリーズ1:ドーパミンとは?脳の「やる気スイッチ」発見の歴史

ドーパミンシリーズ1:ドーパミンとは?脳の「やる気スイッチ」発見の歴史|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2025年10月27日

ドーパミンシリーズ1:ドーパミンとは?脳の「やる気スイッチ」発見の歴史
ドーパミンとは?脳の「やる気スイッチ」発見の歴史

「やる気が出ない」「何をしても楽しくない」――こうした悩みを抱える方は少なくありません。実は、これらの症状の背景には、脳内のドーパミンという物質が深く関わっている可能性があります。

ドーパミンは、私たちの意欲、学習、運動、気分を調整する重要な神経伝達物質です。しかし、その重要性が科学的に明らかになったのは、実は比較的最近のこと。19世紀末から現代まで、約150年にわたる研究の歴史があります。

脳内のドーパミン神経ネットワーク

脳内でドーパミンを分泌する神経細胞のネットワーク

本記事では、ドーパミン研究の歴史を辿りながら、この物質が私たちの脳でどのような役割を果たしているのかを解説します。

ドーパミンとは何か

脳内の「メッセンジャー」

ドーパミンは、神経伝達物質と呼ばれる化学物質の一種です。神経伝達物質とは、脳内で神経細胞(ニューロン)同士が情報をやり取りするための「メッセンジャー」のような役割を果たします[1][2]

神経細胞間でドーパミンが信号を伝える仕組み(アニメーション)

脳内では約1000億個の神経細胞が互いに情報を伝え合っています。この情報伝達に使われるのが神経伝達物質です。

例:ある神経細胞から別の神経細胞へ「やる気を出せ!」という信号を送る際、その橋渡しをするのがドーパミンです。

カテコールアミンファミリーの一員

化学的には、ドーパミンはカテコールアミンというグループに属します[7]。このグループには、以下の3つの重要な物質が含まれます:

  • ドーパミン:動機づけ、報酬、運動制御
  • ノルアドレナリン:覚醒、注意、ストレス反応
  • アドレナリン:緊急時の「闘争・逃走反応」

実は、ドーパミンはノルアドレナリンとアドレナリンの「材料」でもあり、体内でこの順番で作られていきます[2][7]

ドーパミンの多彩な役割

ドーパミンは、私たちの日常生活に欠かせない多くの機能を担っています[2][9]

  • 運動制御:スムーズに体を動かす
  • 動機づけ:「やってみよう」という気持ち
  • 報酬と快楽:達成感や喜びを感じる
  • 学習:経験から学び、記憶する
  • 意思決定:選択肢を評価し、決断する
  • 気分調整:感情のバランスを保つ
POINT

ドーパミンの調節不全は、パーキンソン病、うつ病、ADHD、統合失調症、依存症など、さまざまな病気と関連しています。そのため、ドーパミンは神経科学と精神医学の中心的な研究テーマとなっています[4][5]

1910年:ドーパミンの単離

副腎からの発見

ドーパミンの物語は、19世紀後半に始まります。当時、科学者たちは人体のさまざまな生理学的プロセスに影響を与える化合物を探していました[1]

そして1910年、イギリスの科学者たちが副腎(腎臓の上にある小さな臓器)からドーパミンを単離することに成功しました[1][2]。副腎はホルモンを分泌する重要な器官で、ストレス反応などに関わっています。

当初、ドーパミンは主に副腎で作られるホルモンの一種だと考えられていました。

例:現在では、副腎だけでなく脳内でも大量に作られ、神経伝達物質として働くことが分かっています。

「脳内の物質」という認識はなかった

1910年の段階では、ドーパミンが脳内で重要な役割を果たすとは考えられていませんでした。当時の神経科学は発展途上で、神経伝達物質という概念自体がまだ十分に確立していなかったのです。

ドーパミンの真の重要性が明らかになるまでには、さらに40年以上の歳月が必要でした。

1950年代:神経伝達物質としての発見

パラダイムシフトの時代

1950年代に入ると、神経科学は大きな転換期を迎えます。この時期、研究者たちは脳内でドーパミンが神経伝達物質として機能していることを発見しました[1][2]

特に重要だったのは、スウェーデンの科学者アルヴィド・カールソン博士の研究です。カールソン博士は、ドーパミンが脳内で独立した神経伝達物質として働き、特に運動制御に重要な役割を果たすことを証明しました。

POINT

アルヴィド・カールソン博士は、ドーパミン研究の功績により、2000年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。これは、ドーパミン研究がいかに重要であるかを示す出来事でした。

パーキンソン病との関連

1950年代の研究は、さらに重要な発見につながります。それは、パーキンソン病(手足の震えや体のこわばりが特徴的な病気)の患者では、脳内のドーパミンが著しく減少していることが分かったのです[20]

この発見は、パーキンソン病の治療法開発への道を開き、現在でも使われている「L-DOPA療法」(ドーパミンの材料を投与する治療法)の基礎となりました。

1970年代:報酬経路の解明

「快楽物質」としてのドーパミン

1970年代は、ドーパミン研究のもう一つの革命的な時期でした。この時期、研究者たちはドーパミンが脳の報酬経路に深く関与していることを発見しました[1][2]

報酬経路とは、快楽や満足感を生み出す脳の仕組みのことです。美味しいものを食べた時、目標を達成した時、褒められた時などに活性化し、「気持ちいい」「またやりたい」という感覚を生み出します。

報酬経路が活性化すると、ドーパミンが放出され、その行動を「良いこと」として記憶します。

例:試験勉強を頑張って良い点を取った時、達成感とともにドーパミンが放出されます。すると、「勉強は良いことだ」と脳が学習し、次回も勉強する意欲が高まります。

「予測誤差」仮説の登場

1970年代の研究は、「予測誤差」仮説という重要な理論の基礎を築きました[1][2]。これは、ドーパミンが「期待していたこと」と「実際に起きたこと」の差を計算し、学習を促進するという考え方です。

予測誤差仮説:期待と結果の差によってドーパミンが変化する仕組み
  • 予想以上の報酬:ドーパミン放出↑「これは良い!もっとやろう」
  • 予想通りの報酬:ドーパミン放出→「まあ、こんなものか」
  • 予想以下の報酬:ドーパミン放出↓「がっかり…次は違う方法を試そう」

この仕組みにより、私たちは経験から効率的に学び、行動を最適化していくことができるのです。

依存症研究への応用

報酬経路の発見は、依存症(アルコール、薬物、ギャンブルなど)の理解にも大きく貢献しました。依存性物質や行動は、この報酬経路を「ハイジャック」し、異常に大量のドーパミンを放出させることで、強い欲求を生み出すことが分かったのです[5][11]

POINT

依存症では、薬物やアルコールが通常の報酬よりも遥かに大量のドーパミンを放出させます。その結果、脳の報酬回路が変化し、通常の楽しみでは満足できなくなってしまいます[10][12]

2000年代以降:現代の研究

精神疾患との関連の解明

2000年代に入ると、ドーパミンの研究はさらに加速しました。特に、精神疾患におけるドーパミンの役割が詳細に解明されていきました[3][4]

以下のような疾患で、ドーパミン系の異常が関与していることが明らかになりました:

  • 統合失調症:ドーパミンの過剰(幻覚・妄想と関連)
  • うつ病:ドーパミンの不足(意欲低下・無快感症)
  • ADHD:ドーパミン伝達の異常(注意力・衝動制御の問題)
  • 依存症:報酬回路の変化(強迫的な行動)

神経画像技術の進歩

2000年代以降の大きな進歩の一つは、神経画像技術の発展です。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)やPET(陽電子放出断層撮影)といった技術により、生きている人間の脳内でドーパミンがどのように働いているかを直接観察できるようになりました[6]

神経画像技術により、「この人は今、ドーパミンがたくさん出ている」ということが分かるようになりました。

例:ギャンブル依存症の患者にカジノの画像を見せると、通常の人よりも強くドーパミン系が反応することが画像で確認できます。

計算論的神経科学の台頭

近年では、計算論的神経科学(コンピューターモデルを使って脳の働きを理解する研究分野)が注目されています。この分野では、ドーパミンの「予測誤差」信号を数学的にモデル化し、学習や意思決定のメカニズムをより深く理解しようとしています[2]

  • うつ病の新薬:ドーパミン活性を特異的に高める化合物
  • パーキンソン病の治療:ドーパミン作動薬の改良
  • 依存症治療:報酬回路を正常化する行動療法
POINT

ドーパミン研究は現在も活発に進められており、将来的にはさらに効果的な治療法や、個人の脳の状態に合わせた「オーダーメイド医療」の実現が期待されています[29]


よくある質問
Q. ドーパミンはいつ発見されたのですか?
A. ドーパミンは1910年に副腎から単離されましたが、脳内の神経伝達物質としての重要性が認識されたのは1950年代です。報酬経路との関連が明らかになったのは1970年代で、現在も研究が続いています。
Q. ドーパミンはどんな病気と関係していますか?
A. パーキンソン病(ドーパミン不足による運動障害)、うつ病(意欲低下・無快感症)、ADHD(注意力・衝動制御の問題)、統合失調症(ドーパミン過剰による幻覚・妄想)、依存症(報酬回路の異常)などと関連しています。
Q. 「予測誤差」仮説とは何ですか?
A. 予測誤差仮説とは、ドーパミンが「期待していた報酬」と「実際に得られた報酬」の差を計算し、学習を促進するという理論です。予想以上の報酬があるとドーパミンが増加し、「これは良い!」と学習します。逆に予想以下だとドーパミンが減少し、行動を修正するきっかけになります。
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監修・執筆者

片山 渚 医師

五反田ストレスケアクリニック院長

  • 精神保健指定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
  • 健康経営アドバイザー

大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。

参考文献
  1. [1] Dopamine Circuit Mechanisms of Addiction-Like Behaviors – Frontiers
  2. [2] Dopamine – Wikipedia
  3. [3] The Role of Dopamine in Neurological, Psychiatric, and Metabolic…
  4. [4] Addictive potential of social media, explained – Stanford Medicine
  5. [5] Dopamine, behavior, and addiction | Journal of Biomedical Science
  6. [6] How dopamine drives brain activity – MIT McGovern Institute
  7. [7] Dopamine Biochemistry – News-Medical.Net
  8. [10] Reward system – Wikipedia
  9. [11] Drugs, Brains, and Behavior: The Science of Addiction – Nida.nih.gov
  10. [12] How to Stop Dopamine Addiction – Arista Recovery
  11. [20] Dopamine dysregulation syndrome – Wikipedia
  12. [27] Novel Target in Dopamine Neurons is Basis of Potential New…
  13. [28] Dopamine Agonist: What It Is, Uses, Side Effects & Risks
  14. [29] Dopamine & Addiction: Paramount Recovery’s Treatment in 2025

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