ドーパミンシリーズ6:ドーパミン神経経路②黒質線条体系と漏斗下垂体系~運動とホルモン調節を司る経路~|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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ドーパミンシリーズ6:ドーパミン神経経路②黒質線条体系と漏斗下垂体系~運動とホルモン調節を司る経路~

ドーパミンシリーズ6:ドーパミン神経経路②黒質線条体系と漏斗下垂体系~運動とホルモン調節を司る経路~|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2025年12月01日

ドーパミンシリーズ6:ドーパミン神経経路②黒質線条体系と漏斗下垂体系~運動とホルモン調節を司る経路~

ドーパミン神経経路②黒質線条体系と漏斗下垂体系~運動とホルモン調節を司る経路~

ドーパミン神経経路②黒質線条体系と漏斗下垂体系~運動とホルモン調節を司る経路~

前回は、報酬と認知に関わる中脳辺縁系中脳皮質系について学びました。今回は、残りの2つの主要ドーパミン経路――黒質線条体系漏斗下垂体系――について詳しく解説します。

これらの経路は、それぞれ運動制御ホルモン調節という、一見すると精神機能とは無関係に見える機能を担っています。しかし、精神科治療薬の副作用を理解する上で、これらの経路の知識は不可欠です。

4つのドーパミン経路の解剖学的位置と機能を示す脳の模式図
黒質線条体系経路
経路の概要

黒質線条体系は、中脳の黒質緻密部から、背側線条体へと投射する経路です[1][2]

経路:黒質緻密部(SNc)→ 背側線条体(被殻・尾状核)

POINT

黒質線条体系は、脳内ドーパミンの約80%を占める最大のドーパミン経路です。主な役割は運動の開始と制御です[2]

黒質緻密部:ドーパミンの大生産地

黒質緻密部(SNc)は、中脳の黒質の背側部分に位置し、高密度のドーパミン神経細胞が集まっています[1]

黒質の特徴:

  • 「黒い」理由:ドーパミン神経細胞にニューロメラニンという黒い色素が蓄積しているため、肉眼で黒く見える
  • 細胞数:片側約40万個のドーパミン神経細胞が存在
  • 脆弱性:加齢や疾患で最も影響を受けやすい領域の一つ

豆知識:パーキンソン病では、この黒質の細胞が失われていくため、病理解剖で黒質の色が薄くなっているのが観察されます[1]

背側線条体:運動制御の司令塔

背側線条体は、以下の2つの構造から成ります[2][6]

  • 被殻:主に運動の実行に関与
  • 尾状核:運動の計画と認知的側面に関与

統合失調症では、この線条体のドーパミン機能に異常が見られることが報告されています。具体的には、線条体におけるドーパミン合成能の亢進や、ドーパミン放出の増加が観察されます[2][6]

運動制御における役割

黒質線条体系は、大脳基底核の一部として、以下の運動機能を担っています[2]

1. 運動の開始

ドーパミンは、運動を「始める」信号として働きます。ドーパミンが不足すると、動作を開始するのが困難になります(無動)。

2. 運動の滑らかさ

複数の筋肉を協調させ、スムーズな動きを可能にします。ドーパミン不足では、動きがぎこちなくなります(固縮)。

3. 運動の速度調節

動作のスピードを適切に制御します。ドーパミン不足では、動作が遅くなります(動作緩慢)。

4. 不随意運動の抑制

意図しない動きを抑えます。ドーパミンのバランスが崩れると、不随意運動(震えなど)が出現する可能性があります。

黒質線条体系のドーパミンは、「運動のアクセル」のような役割を果たしています。

例:コップに手を伸ばす動作を考えてみましょう。黒質線条体系のドーパミンが、「今だ!手を動かせ!」という信号を送り、さらに動きの速さや滑らかさを調整しています。

パーキンソニズムと黒質線条体系
薬剤性パーキンソニズム

抗精神病薬など、ドーパミンをブロックする薬を使用すると、黒質線条体系のドーパミン伝達が遮断され、パーキンソン病に似た症状が出現することがあります[3]。これは錐体外路症状(EPS: Extrapyramidal Symptoms)と呼ばれる副作用の一つです。

薬剤性パーキンソニズムの特徴:

  • 可逆性:薬を中止または減量すれば、通常は改善が期待できます
  • 両側性:パーキンソン病は片側から始まることが多いですが、薬剤性は両側に出やすい傾向があります
  • 安静時振戦が少ない:パーキンソン病に比べて振戦が目立たない傾向があります
POINT

抗精神病薬による錐体外路症状は、用量依存性があります。適切な用量調整や、より選択的な薬剤への変更により、症状の軽減が期待できます[3]

漏斗下垂体系経路
経路の概要

漏斗下垂体系は、視床下部の弓状核から、下垂体の正中隆起へと投射する短い経路です。

経路:視床下部弓状核 → 正中隆起(下垂体門脈系)→ 下垂体前葉

プロラクチン分泌の調節

漏斗下垂体系の主な役割は、プロラクチンというホルモンの分泌を抑制することです。

プロラクチンとは

プロラクチンは、下垂体前葉から分泌されるホルモンで、主な働きは:

  • 乳汁分泌:授乳期に乳腺を刺激して母乳を作る
  • 生殖機能:性腺機能に影響(高すぎると月経不順や性機能障害が起こる可能性があります)
ドーパミンの抑制作用

通常、ドーパミンは「プロラクチン抑制因子(PIF)」として働き、プロラクチンの過剰分泌を防いでいます。

つまり、ドーパミンは「ブレーキ」の役割を果たしています。

正常時:ドーパミンがプロラクチン分泌を適度に抑えている
ドーパミンブロック時:ブレーキが外れて、プロラクチンが過剰分泌される可能性があります

高プロラクチン血症

抗精神病薬などでドーパミンがブロックされると、プロラクチンが過剰分泌され、高プロラクチン血症が起こることがあります[3]

高プロラクチン血症の症状

女性の症状:

  • 月経不順・無月経
  • 乳汁分泌(授乳期でないのに母乳が出る)
  • 不妊
  • 性欲減退

男性の症状:

  • 性欲減退
  • 勃起障害(ED)
  • 女性化乳房(まれ)
  • 不妊
POINT

高プロラクチン血症は、抗精神病薬の副作用として比較的よく見られます。定期的な血液検査でプロラクチン値をモニタリングし、問題があれば薬の変更や追加治療を検討します[3]

4つの経路の相互関係
経路間のバランス

4つのドーパミン経路は、互いに独立しているようでいて、実は複雑に関連し合っています[2][5]

4つのドーパミン経路の機能と相互関係を示す図
4つのドーパミン経路の機能と相互関係
4つの経路のまとめ
経路名 起点→終点 主な機能
中脳辺縁系 VTA → 側坐核 報酬・動機づけ
中脳皮質系 VTA → 前頭前皮質 認知・実行機能
黒質線条体系 黒質 → 背側線条体 運動制御
漏斗下垂体系 視床下部 → 下垂体 ホルモン調節
統合失調症における不均衡

統合失調症では、これら4つの経路のバランスが崩れていると考えられています[2][4][5]

  • 中脳辺縁系:↑過剰(幻覚・妄想などの陽性症状に関連)
  • 中脳皮質系:↓不足(認知障害・陰性症状に関連)
  • 黒質線条体系:通常は正常(しかし治療薬で影響を受ける)
  • 漏斗下垂体系:通常は正常(しかし治療薬で影響を受ける)

この「ドーパミン仮説」は統合失調症の理解における重要な枠組みですが、実際の病態はより複雑であることが明らかになっています。グルタミン酸系やGABA系など、他の神経伝達物質系も重要な役割を果たしています[4][5][7]

薬物治療と経路選択性
理想的な治療薬とは

統合失調症の治療において、理想的な抗精神病薬は[3][7]

  • 中脳辺縁系:ブロックする(幻覚・妄想を改善)
  • 中脳皮質系:ブロックしない、または適度に刺激(認知機能を保つ)
  • 黒質線条体系:ブロックしない(運動障害を避ける)
  • 漏斗下垂体系:ブロックしない(高プロラクチン血症を避ける)
抗精神病薬の経路選択性を示す図
従来型抗精神病薬

従来型(定型)抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジンなど)は、ドーパミンD2受容体を強力かつ非選択的にブロックします[3]

効果:

  • 陽性症状(幻覚・妄想)の改善が期待できます

問題点:

  • 錐体外路症状(EPS):黒質線条体系もブロックするため、パーキンソン症状が出現する可能性があります
  • 高プロラクチン血症:漏斗下垂体系もブロックするため、性機能障害などが起こる可能性があります
  • 陰性症状には効果が限定的:中脳皮質系もブロックするため、むしろ悪化させる可能性があります
非定型抗精神病薬

非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなど)は、より選択的な作用を持つとされています[3][7]

利点:

  • 錐体外路症状が少ない傾向(黒質線条体系への影響が少ない)
  • 一部の薬では高プロラクチン血症が少ない傾向
  • 陰性症状や認知症状にもある程度の効果が期待できます

問題点:

  • 代謝系の副作用(体重増加、糖尿病、脂質異常症)のリスク
  • 薬によっては依然として高プロラクチン血症が起こる可能性があります
POINT

「経路選択性」は完全ではありません。どの薬も、ある程度は4つすべての経路に影響します。治療では、効果と副作用のバランスを見ながら、個々の患者さんに最適な薬を選びます[3][7]。効果には個人差があるため、医師との十分な相談が重要です。

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五反田ストレスケアクリニックでは、経験豊富な精神科医が丁寧に診察いたします。
お薬の副作用や治療法についても、お気軽にご相談ください。


よくある質問
Q. パーキンソン病と薬剤性パーキンソニズムは見分けられますか?
A. いくつかの違いがあります。パーキンソン病は通常、片側から始まり、安静時振戦が特徴的です。一方、薬剤性は両側性で、振戦が少ない傾向があります。また、薬剤性は薬を中止すれば改善が期待できますが、パーキンソン病は進行性です。ただし、区別が難しいこともあり、専門医による評価が重要です。
Q. 高プロラクチン血症は治療が必要ですか?
A. 症状や程度によります。軽度で無症状なら経過観察のこともありますが、月経不順や性機能障害などの症状がある場合は治療を検討します。治療法としては、①より影響の少ない抗精神病薬への変更、②ドーパミン作動薬の併用、③必要なら精神科治療薬の減量などがあります。長期的な高プロラクチン血症は骨密度低下のリスクもあるため、定期的なモニタリングが重要です。
Q. なぜすべての経路に選択的に作用する薬は作れないのですか?
A. 4つの経路はすべて同じドーパミン受容体(主にD2受容体)を使っているため、完全な選択性を持つ薬を作るのは技術的に非常に困難です。現在の薬は、投与量や受容体への結合の仕方を工夫することで、ある程度の選択性を実現しています。将来的には、より選択的な薬の開発が期待されています。
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監修・執筆者
片山 渚 医師

五反田ストレスケアクリニック院長

  • 精神保健指定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
  • 健康経営アドバイザー

大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。

参考文献
  1. van Hooijdonk CFM, van der Pluijm M, Bosch I, et al. The Substantia Nigra in the Pathology of Schizophrenia: A Review on Post-Mortem and Molecular Imaging Findings. Eur Neuropsychopharmacol. 2023;68:57-77. doi:10.1016/j.euroneuro.2022.12.008
  2. McCutcheon RA, Abi-Dargham A, Howes OD. Schizophrenia, Dopamine and the Striatum: From Biology to Symptoms. Trends Neurosci. 2019;42(3):205-220. doi:10.1016/j.tins.2018.12.004
  3. Kaar SJ, Natesan S, McCutcheon R, Howes OD. Antipsychotics: Mechanisms Underlying Clinical Response and Side-Effects and Novel Treatment Approaches Based on Pathophysiology. Neuropharmacology. 2020;172:107704. doi:10.1016/j.neuropharm.2019.107704
  4. Jauhar S, Johnstone M, McKenna PJ. Schizophrenia. Lancet. 2022;399(10323):473-486. doi:10.1016/S0140-6736(21)01730-X
  5. McCutcheon RA, Reis Marques T, Howes OD. Schizophrenia—An Overview. JAMA Psychiatry. 2020;77(2):201-210. doi:10.1001/jamapsychiatry.2019.3360
  6. Horga G, Cassidy CM, Xu X, et al. Dopamine-Related Disruption of Functional Topography of Striatal Connections in Unmedicated Patients With Schizophrenia. JAMA Psychiatry. 2016;73(8):862-70. doi:10.1001/jamapsychiatry.2016.0178
  7. Marder SR, Cannon TD. Schizophrenia. N Engl J Med. 2019;381(18):1753-1761. doi:10.1056/NEJMra1808803

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