ドーパミンシリーズ8:ドーパミンと精神疾患:依存症・ADHD・うつ病~報酬系の機能異常と治療~|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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ドーパミンシリーズ8:ドーパミンと精神疾患:依存症・ADHD・うつ病~報酬系の機能異常と治療~

ドーパミンシリーズ8:ドーパミンと精神疾患:依存症・ADHD・うつ病~報酬系の機能異常と治療~|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2025年12月15日

ドーパミンシリーズ8:ドーパミンと精神疾患:依存症・ADHD・うつ病~報酬系の機能異常と治療~

ドーパミンシリーズ8:ドーパミンと精神疾患:依存症・ADHD・うつ病~報酬系の機能異常と治療~

ドーパミンと精神疾患:依存症・ADHD・うつ病~報酬系の機能異常と治療~

今回は、ドーパミンシステムの異常が関わる他の重要な精神疾患――依存症ADHD(注意欠如・多動症)うつ病――について解説します。

これらの疾患は、一見異なるように見えますが、いずれも報酬系の機能異常という共通点を持っています。それぞれの疾患でドーパミンがどのような役割を果たしているかを理解することで、症状や治療への理解が深まります。

3疾患とドーパミン
依存症・ADHD・うつ病における報酬系の異常パターン
依存症とドーパミン

依存症とは

依存症(addiction)は、特定の物質や行動に対する強迫的な欲求と、その使用・行動を制御できない状態を指します[1][5][11]

依存症の種類

  • 物質依存:アルコール、薬物(覚醒剤、オピオイド、大麻など)、ニコチン
  • 行動依存:ギャンブル、ゲーム、インターネット、買い物、性行動
依存とドーパミン放出
各種報酬刺激によるドーパミン放出量の比較

依存症の神経メカニズム

依存症は、単なる「意志の弱さ」ではなく、脳の報酬系が病的に変化した状態です[1][5][11]

ステージ1:初期の快楽(Binge/Intoxication)

  • ドーパミンの急激な増加:依存物質は通常の報酬(食事など)の2〜10倍のドーパミンを放出させる
  • 強烈な快感:「こんなに気持ち良いものはない」という体験
  • 学習の強化:脳が「これは非常に重要だ」と記録する

ステージ2:耐性と離脱(Withdrawal/Negative Affect)

  • 耐性の形成:同じ快感を得るために、より多くの量が必要になる
  • 受容体のダウンレギュレーション:ドーパミン受容体が減少し、感受性が低下
  • 離脱症状:使用をやめると不快感、不安、抑うつが出現

ステージ3:渇望と強迫的使用(Preoccupation/Anticipation)

  • 前頭前皮質の機能低下:衝動制御能力が低下
  • 条件づけの形成:特定の環境・状況が強い渇望を引き起こす
  • 「やめたいのにやめられない」:意志の問題ではなく、脳機能の問題

依存症の核心的問題:

繰り返し使用により、脳は「通常の報酬」(美味しい食事、人とのつながり、達成感など)に対する感受性が低下します。その結果、依存対象だけが「価値あるもの」として認識され、それ以外のものへの興味や喜びが失われます。これが、仕事や家族を失っても使用を続けてしまう理由です。

依存症の進行
依存症の3つのステージと脳の変化

依存症の治療

依存症の治療は、薬物療法と心理社会的治療の組み合わせが基本です[24]

薬物療法

  • アルコール依存:ナルトレキソン(報酬効果を減弱)、アカンプロサート(渇望軽減)
  • オピオイド依存:メサドン、ブプレノルフィン(代替療法)
  • ニコチン依存:バレニクリン(ニコチン受容体部分作動薬)

心理社会的治療

  • 認知行動療法(CBT):渇望への対処法を学ぶ
  • 動機づけ面接:変化への動機を高める
  • 自助グループ:AA、NAなどのピアサポート
POINT

依存症からの回復には時間がかかりますが、脳の可塑性により、長期間の断酒・断薬によって報酬系の機能は徐々に回復することが示されています。再発は失敗ではなく、回復の過程の一部と捉えることが重要です[24]

ADHDとドーパミン

ADHDとは

ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性を特徴とする神経発達症です[22][23]

ADHDの症状
ADHDの3つの主要症状:不注意・多動性・衝動性

疫学

  • 有病率:子どもの約5-7%、成人の約2.5%
  • 性差:男性に多い(男女比は約2:1)
  • 持続性:約60%は成人期まで症状が続く
  • 遺伝率:約70-80%(遺伝の影響が大きい)

ADHDのドーパミン仮説

ADHDでは、前頭前皮質線条体のドーパミン機能が低下していると考えられています[22][23]

ドーパミン機能低下の影響

  1. 前頭前皮質のドーパミン不足
    • ワーキングメモリの障害
    • 実行機能の低下
    • 衝動制御の困難
    • 注意の持続困難
  2. 線条体のドーパミン不足
    • 報酬への反応性低下
    • 遅延報酬に対する忍耐力の低下
    • 動機づけの問題

ADHDの「興味があることには集中できる」現象:

ADHDの人は、興味のあることには非常に集中できる(過集中)ことがあります。これは、強い興味がドーパミン放出を促進し、一時的にドーパミン不足が補われるためと考えられます。逆に、興味のないことでは十分なドーパミンが放出されず、注意を維持できません。

ADHDの治療

薬物療法

ADHD治療薬は、主に前頭前皮質のドーパミン(およびノルアドレナリン)レベルを高めます[22][23]

  • メチルフェニデート(コンサータ、リタリン)

    作用:ドーパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害

  • アンフェタミン系薬剤(ビバンセなど)

    作用:ドーパミン・ノルアドレナリンの放出促進+再取り込み阻害

  • アトモキセチン(ストラテラ)

    作用:ノルアドレナリン再取り込み阻害(非刺激薬)

  • グアンファシン(インチュニブ)

    作用:α2Aアドレナリン受容体作動薬(非刺激薬)

非薬物療法

  • 認知行動療法:時間管理、組織化スキルの習得
  • 環境調整:刺激の少ない作業環境、構造化されたスケジュール
  • コーチング:日常生活のサポートと目標設定
POINT

ADHD治療薬は「覚醒剤と同じ」という誤解がありますが、適切な用量で医師の管理のもとで使用する場合、依存のリスクは低いです。むしろ、適切に治療されないADHDは、自己治療としての物質乱用リスクを高めます[22]

うつ病とドーパミン

うつ病の症状とドーパミン

うつ病は従来、セロトニンの問題として語られることが多かったですが、近年はドーパミンの役割も注目されています[3]

ドーパミン関連症状

うつ病の症状の中で、特にドーパミン機能低下と関連が深いもの[3]

  • 無快感症(Anhedonia):喜びを感じられない、以前楽しめたことが楽しめない
  • 意欲低下:何もする気が起きない、動き出せない
  • 精神運動抑制:思考や行動が遅くなる
  • 集中力低下:注意を維持できない
  • 疲労感:エネルギーの欠如

セロトニン vs ドーパミン:

セロトニン不足:悲しみ、不安、否定的思考
ドーパミン不足:喜びの喪失、意欲低下、エネルギー不足
多くのうつ病患者は、両方の症状を持っています。

うつ病における報酬系の異常

画像研究により、うつ病患者では報酬系の活動が低下していることが示されています[3]

主な発見

  • 側坐核の反応性低下:報酬刺激に対する活動が弱い
  • 報酬予測の障害:「良いことが起こる」という期待が生じにくい
  • VTAの機能低下:ドーパミン産生の減少

うつ病の治療とドーパミン

ドーパミン系に作用する抗うつ薬

  • ブプロピオン(未承認):ドーパミン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(DNRI)

    → 意欲低下、無快感症に効果が期待される

  • MAO阻害薬:ドーパミンを含む神経伝達物質の分解を抑制

    → 治療抵抗性うつ病に使用されることがある

  • 非定型抗精神病薬(アリピプラゾールなど):SSRI/SNRIへの増強療法

    → ドーパミン部分作動作用により報酬系を活性化

POINT

SSRIだけで改善しない「無快感症」や「意欲低下」が主な症状のうつ病には、ドーパミン系に作用する薬剤を追加または切り替えることで、効果が得られることがあります[3]

3疾患の共通点と相違点

報酬系異常の比較

特徴 依存症 ADHD うつ病
ドーパミンの問題 過敏化→鈍化 ベースラインの低下 反応性の低下
主な脳領域 側坐核、前頭前皮質 前頭前皮質、線条体 VTA、側坐核、前頭前皮質
報酬への反応 依存対象のみ過剰反応 即時報酬に偏る 全般的に低下
衝動制御 特定対象への衝動↑ 全般的に衝動↑ 通常は問題なし
動機づけ 依存対象への動機↑↑ 変動が大きい 全般的に低下

疾患間の合併

これら3つの疾患は、しばしば合併します[1][3][22]

3疾患の合併
依存症・ADHD・うつ病の高い合併率
  • ADHDと依存症:ADHDの人は依存症リスクが2-3倍高い
  • 依存症とうつ病:依存症患者の約30-50%がうつ病を合併
  • ADHDとうつ病:ADHDの人はうつ病リスクが約3倍

合併する理由:これらの疾患は、報酬系の機能異常という共通の神経基盤を持っています。また、ADHDの人が「自己治療」として物質を使用したり、依存症の離脱がうつ状態を引き起こしたりと、因果関係も複雑です。

治療アプローチの比較

薬物療法の比較

疾患 主な薬物療法 ドーパミンへの作用
依存症 ナルトレキソン、代替療法 報酬効果の減弱
ADHD メチルフェニデート、アンフェタミン 前頭前皮質のDA↑
うつ病 SSRI/SNRI、ブプロピオン 報酬系の活性化

共通する治療原則

3つの疾患に共通して有効なアプローチ[1][3][22][24]

  1. 運動:ドーパミンシステムを自然に活性化する最も効果的な方法の一つ
  2. 規則正しい生活:睡眠、食事のリズムが報酬系の安定に重要
  3. 社会的つながり:社会的報酬は健全なドーパミン放出を促す
  4. 目標設定と達成:小さな目標達成が報酬系を適度に刺激する
  5. マインドフルネス:衝動への対処能力を高める
POINT

依存症、ADHD、うつ病はそれぞれ異なる疾患ですが、報酬系の機能異常という共通点を持っています。この理解は、複数の問題を抱える患者さんの治療において特に重要です。ドーパミンシステムを健全に保つ生活習慣は、これらすべての疾患の予防と回復に役立ちます。


よくある質問
Q. ADHD治療薬は依存性がありますか?
A. 適切な診断のもと、医師の指示に従って使用する場合、依存性のリスクは低いです。むしろ、適切に治療されないADHDは、刺激を求めて物質乱用に走るリスクが高まります。ただし、処方を超えた使用や他人への譲渡は、依存のリスクを高めるため絶対に避けてください。
Q. うつ病でやる気が出ないのは、怠けているだけではないのですか?
A. 違います。うつ病の意欲低下は、脳の報酬系(特にドーパミンシステム)の機能低下による症状です。「頑張れば動ける」というものではなく、脳の神経伝達物質のバランスが崩れた状態です。適切な治療により、脳機能が回復すれば、意欲も戻ってきます。
Q. 依存症は治りますか?
A. 依存症は慢性疾患ですが、治療により回復は可能です。「完治」というよりは「寛解」や「回復」という表現が適切で、多くの人が断酒・断薬を続けながら充実した生活を送っています。再発は失敗ではなく、治療の一部と捉え、再び回復の道を歩むことが重要です。脳の可塑性により、長期的な回復で報酬系も徐々に正常化していきます。
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監修・執筆者

片山 渚 医師

五反田ストレスケアクリニック院長

  • 精神保健指定医
  • 日本医師会認定産業医
  • 産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
  • 健康経営アドバイザー

大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や状況に対する医学的アドバイスではありません。医療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当院は責任を負いかねます。

参考文献
  1. [1] Dopamine Circuit Mechanisms of Addiction-Like Behaviors – Frontiers
  2. [3] The Role of Dopamine in Neurological, Psychiatric, and Metabolic…
  3. [5] Dopamine, behavior, and addiction | Journal of Biomedical Science
  4. [11] Drugs, Brains, and Behavior: The Science of Addiction – Nida.nih.gov
  5. [22] ADHD and the Dopamine System – Harvard Health Publishing
  6. [23] Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD) – NIMH
  7. [24] Treatment and Recovery | National Institute on Drug Abuse (NIDA)

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