運動が”天然の抗うつ薬”と呼ばれる科学的根拠|精神科医が解説する運動療法|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

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運動が”天然の抗うつ薬”と呼ばれる科学的根拠|精神科医が解説する運動療法

運動が”天然の抗うつ薬”と呼ばれる科学的根拠|精神科医が解説する運動療法|五反田ストレスケアクリニック|心療内科・精神科

2026年2月09日

運動が”天然の抗うつ薬”と呼ばれる科学的根拠|精神科医が解説する運動療法

運動が”天然の抗うつ薬”と呼ばれる科学的根拠|精神科医が解説する運動療法


運動が”天然の抗うつ薬”と呼ばれる科学的根拠|精神科医が解説する運動療法
この記事のポイント
  • 週1時間の運動でうつ病リスクが12%低下(HUNT研究・33,908名対象)
  • 運動はセロトニン・ドーパミン・BDNFの4つの脳内物質に同時作用
  • ウォーキング、ヨガ、筋トレが特に効果的(2024年BMJメタアナリシス)
  • 強度より継続が重要 ― 10分の散歩から始められる

「運動は体にいい」—これは誰もが知っている常識です。しかし、「運動は心にも薬になる」ということは、まだ十分に知られていません。

2024年にBMJ(英国医学雑誌)に掲載された最新の大規模メタアナリシスでは、ウォーキングやヨガ、筋力トレーニングがうつ病治療に中等度から高度の効果を示すことが確認されました。さらに驚くべきことに、これらの効果は薬物療法や心理療法と同等かそれ以上のケースもあるのです。

精神科医として日々患者さんと向き合う中で、私は「薬だけが治療ではない」ということを強く実感しています。今回は、なぜ運動が「天然の抗うつ薬」と呼ばれるのか、その科学的根拠を詳しく解説します。

ストレスや心の不調でお悩みの方へ

五反田ストレスケアクリニックでは、経験豊富な精神科医が丁寧に診察いたします。運動療法を含めた総合的な治療プランをご提案します。

運動で変わる4つの脳内物質

運動がメンタルヘルスに効く理由は、複数の神経伝達物質や神経栄養因子に同時に作用するからです。まるで、複数の薬を組み合わせた「カクテル療法」のような効果があるのです。

運動が脳内物質(セロトニン・ドーパミン・BDNF)に与える影響の概念図
1. セロトニン:気分を安定させる

運動、特にリズミカルな有酸素運動は、セロトニンの合成と放出を促進します。ジョギングやウォーキングなどのリズム運動が特に効果的なのは、セロトニン神経がリズミカルな刺激に反応しやすいためです。

主なメカニズム:

  • トリプトファン(セロトニンの原料)の脳内取り込み増加
  • セロトニン神経の発火頻度上昇
  • 5-HT1A受容体の感受性改善

期待できる効果:

  • 不安の軽減
  • 気分の安定化
  • 睡眠の質向上
2. ドーパミン:やる気と達成感を生む

運動は報酬系を活性化し、ドーパミンの分泌を促します。「運動後の爽快感」は、このドーパミンの作用によるものです。継続することで、「運動→達成感→もっと運動したい」という正のサイクルが生まれます。

主なメカニズム:

  • 線条体でのドーパミン放出増加
  • ドーパミン受容体の感受性向上
  • 報酬予測誤差の適正化
3. BDNF(脳由来神経栄養因子):脳を守り、育てる

BDNFは「脳の肥料」とも呼ばれ、神経細胞の成長と保護に不可欠な物質です。うつ病患者ではBDNFが低下していることが知られており、運動によるBDNF増加は、抗うつ薬と同様のメカニズムで作用します。

2023年に発表されたメタアナリシスでは、筋力トレーニングがBDNFを有意に増加させ(平均差+0.73 ng/ml)、同時にうつ症状を改善することが確認されています(効果サイズ-0.38)。

期待できる効果:

  • 記憶力・学習能力の改善
  • ストレス耐性の向上
  • 神経新生(新しい神経細胞の誕生)促進
4. 炎症性サイトカインの抑制:慢性炎症を鎮める

最近の研究で、うつ病と慢性炎症の関連が明らかになってきました。定期的な運動は、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインを減少させ、この「見えない炎症」を鎮める消防隊のような役割を果たします。

最新エビデンス:どの運動が最も効果的か?

2024年にBMJに掲載されたNoetelらの大規模ネットワークメタアナリシス(218研究、14,170名対象)は、運動療法の効果について最も包括的なエビデンスを提供しています。

運動が脳内物質(セロトニン・ドーパミン・BDNF)に与える影響の概念図
運動種類別の効果(2024年BMJメタアナリシス)
運動の種類 効果サイズ(g) 特徴
ウォーキング・ジョギング -0.62 最も高い効果、手軽に始められる
ヨガ -0.55 受容性が高く継続しやすい
筋力トレーニング -0.49 達成感が得やすい、BDNF増加効果
混合有酸素運動 -0.43 バリエーション豊富
太極拳・気功 -0.42 高齢者にも安全

※効果サイズ(Hedges’ g):絶対値が大きいほど効果が高い。-0.2〜-0.5は小〜中、-0.5以上は中〜大効果

重要なポイント: 運動の効果は強度に比例して高くなりますが、最も重要なのは「続けられる強度」を選ぶことです。週3回の軽い運動の方が、月1回のハードな運動より効果的です。

週1時間でうつ病リスク12%減:HUNT研究の衝撃

ノルウェーで行われたHUNT研究(Harvey et al., 2018)は、33,908名を11年間追跡した大規模コホート研究です。この研究から、驚くべき事実が明らかになりました。

HUNT研究の主な知見
  • 週1時間の運動で、うつ病発症リスクが12%低下
  • 運動の強度は問わない(軽い運動でも効果あり)
  • 不安障害には運動の予防効果は認められなかった
  • 因果関係が成立すれば、12%のうつ病が運動で予防可能

この研究で特筆すべきは、「少しの運動でも効果がある」という点です。「毎日1時間走らなければ意味がない」のではなく、週に合計1時間程度の運動でも、うつ病のリスクを有意に下げることができるのです。

精神科医が処方する”運動処方箋”プログラム

段階的プログラムをご紹介します。「わかっているけど、続かない」という方も多いと思いますが、認知行動療法の技法を使った継続のコツも含めてお伝えします。

段階的プログラム
Phase 1:習慣化期(1-2週目)

目標:まず始めること、そして続けること

処方例:

  • 月・水・金:10分散歩
  • 朝起きたら、着替えて外に出る
  • 歩数計アプリで記録
  • 達成したら自分を褒める
Phase 2:構築期(3-4週目)

目標:運動量を少しずつ増やす

処方例:

  • 月・水・金:20分早歩き
  • 火・木:10分ストレッチ or ヨガ動画
  • 週末どちらか:30分好きな運動
Phase 3:発展期(5週目以降)

目標:自分に合った運動習慣の確立

処方例A(有酸素重視型):

  • 週3-4回:30-45分のジョギング or サイクリング
  • 週1-2回:20分の筋トレ

処方例B(マインドボディ型):

  • 週3回:45分のヨガ or ピラティス
  • 週2回:30分ウォーキング
運動が続かない人のための5つのテクニック

「わかっているけど、続かない」—これが最大の課題です。認知行動療法の技法を使った継続のコツをお伝えします。

1. スモールステップ法

「明日から毎日1時間走る!」という目標は3日で挫折します。代わりに、「運動着に着替える」→「玄関を出る」→「5分歩く」と、小さすぎる目標から始めることが、逆に大きな成果につながります。

2. If-Thenプランニング

「もし〜なら、〜する」という形で行動を自動化します:

  • 「朝起きたら、すぐ運動着に着替える」
  • 「昼休みになったら、建物の周りを1周する」
  • 「テレビを見るなら、CMの間はスクワット」
3. ソーシャルサポートの活用

運動仲間を見つける、SNSで記録を共有する、運動系のコミュニティに参加するなど、一人で頑張らない仕組みを作りましょう。

4. 報酬システムの設計

運動カレンダーにシールを貼る、月間目標達成で自分にご褒美、アプリでの記録とバッジ獲得など、小さな達成感を可視化しましょう。

5. 障害の事前想定と対策

「雨の日」「時間がない日」「やる気が出ない日」の対策を事前に決めておきます:

  • 雨の日:室内運動の動画を準備、階段昇降
  • 時間がない日:7分間ワークアウト、ながら運動
  • やる気が出ない日:「5分だけ」ルール、好きな音楽をかける
薬物療法との併用:相乗効果を狙う

運動療法は薬物療法との併用で相乗効果が期待できます。SSRIなどの抗うつ薬はセロトニンの再取り込みを阻害し、運動はセロトニンの合成を促進するため、ダブルでセロトニン系を強化することになります。

研究では、運動と薬物療法の併用群は薬単独群より寛解率が高く、再発率も低いことが報告されています。

注意点: 薬の服用初期は無理をせず、めまいや動悸がある時は医師に相談してください。また、一部の薬では発汗が増加することがあるため、脱水に注意が必要です。

安全に運動を始めるための注意事項
事前に医師に相談すべき場合
  • 心臓病、高血圧などの持病がある方
  • めまい、動悸などの症状がある方
  • 薬を服用中で不安がある方
  • 3ヶ月以上運動していない方
  • BMI 30以上の方
運動中の危険サイン(すぐに中止すべき症状)
  • 胸の痛みや圧迫感
  • 異常な息切れ
  • めまいや意識が遠のく感覚
  • 冷や汗
  • 関節や筋肉の激痛

「もっと頑張らなきゃ」ではなく、「ちょうどいい」を見つけることが大切です。オーバートレーニングは疲労が取れない、睡眠の質低下、イライラの増加などの兆候で現れます。

まとめ:運動は最強のメンタルヘルス投資

運動が「天然の抗うつ薬」と呼ばれる理由をまとめます。

科学的根拠のまとめ
  • 4つの脳内物質への作用:セロトニン(気分安定)、ドーパミン(やる気向上)、BDNF(脳の保護と成長)、炎症抑制
  • エビデンスの蓄積:薬物療法と同等以上の効果、副作用がほぼない、再発予防効果が高い
  • 即効性と持続性:2週間で効果を実感、継続により効果が蓄積

運動を「しなければならないもの」ではなく、「自分への投資」「セルフケアの時間」として捉えてください。

精神科医として多くの患者さんを診てきて確信していることがあります。それは、運動は単なる治療法ではなく、より良い人生を送るための最強のツールだということです。

今日から、いや、今この瞬間から始められます。立ち上がって、深呼吸をして、その場で軽く足踏みをしてみてください。それが、あなたの人生を変える最初の一歩になるかもしれません。

よくある質問(FAQ)
Q. 運動でうつ病は本当に改善しますか?

A. 2024年にBMJに掲載された大規模メタアナリシス(218研究、14,170名対象)では、運動がうつ病に対して中等度の効果(Hedges’ g -0.43〜-0.62)を示すことが確認されています。特にウォーキング・ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングで効果が高いとされています。

Q. どのくらいの運動量が必要ですか?

A. HUNT研究(33,908名、11年追跡)によると、週にわずか1時間の運動でうつ病の発症リスクが12%低下することが示されています。強度よりも継続することが重要で、軽い運動でも効果が得られます。

Q. どの運動が最も効果的ですか?

A. BMJのメタアナリシスでは、ウォーキング・ジョギング(効果サイズ-0.62)、ヨガ(-0.55)、筋力トレーニング(-0.49)の順で効果が高いことが示されています。ただし、最も重要なのは続けられる運動を選ぶことです。

Q. 運動と薬物療法は併用できますか?

A. はい、併用は推奨されます。薬物療法はセロトニンの再取り込みを阻害し、運動はセロトニンの合成を促進するため、相乗効果が期待できます。研究では、併用群は薬単独群より改善率が高いことが報告されています。

Q. 運動を始める際の注意点は?

A. 心臓病や高血圧などの持病がある方、3ヶ月以上運動していない方は、開始前に医師に相談することをお勧めします。また、胸の痛み、異常な息切れ、めまいなどの症状が出た場合は直ちに中止してください。

専門的な診察・治療をご希望の方へ

五反田ストレスケアクリニックでは、お一人おひとりの症状に合わせた治療を提供しています。運動療法を含めた総合的な治療プランについて、お気軽にご相談ください。

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参考文献
  1. Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847. doi:10.1136/bmj-2023-075847
  2. Harvey SB, Øverland S, Hatch SL, et al. Exercise and the Prevention of Depression: Results of the HUNT Cohort Study. Am J Psychiatry. 2018;175(1):28-36. doi:10.1176/appi.ajp.2017.16111223
  3. Setayesh S, Mohammad Rahimi GR. The impact of resistance training on brain-derived neurotrophic factor and depression among older adults aged 60 years or older: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Geriatr Nurs. 2023;54:23-31. doi:10.1016/j.gerinurse.2023.08.022
  4. Shigdel R, Stubbs B, Sui X, Ernstsen L. Cross-sectional and longitudinal association of non-exercise estimated cardiorespiratory fitness with depression and anxiety in the general population: The HUNT study. J Affect Disord. 2019;252:122-129. doi:10.1016/j.jad.2019.04.016

監修・執筆者

片山 渚 医師
五反田ストレスケアクリニック院長
精神保健指定医
日本医師会認定産業医
産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
健康経営アドバイザー

大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を活かし、患者さんが安心して治療を継続できるよう、わかりやすい情報提供を心がけています。

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