2026年5月27日

避ける言葉・かける言葉を精神科医が解説
大切な家族がうつ病や不安障害を抱えたとき、「何と言えばいいのか」「どこまで手伝えばいいのか」と迷うことがあります。この記事では、避けたい声かけ、安心につながる言葉、受診や生活面の支え方、緊急時の対応をご家族向けに整理します。
- ▸うつ病・不安障害の方に「頑張れ」が負担になりやすい理由
- ▸避けたい7つの言葉と、安心につながる言い換え例
- ▸生活・受診・制度利用を支える具体的な3ステップ
- ▸希死念慮・強い不眠・躁状態など、早めに相談したいサイン
- ▸支えるご家族自身が疲れ切らないための考え方

家族の言葉が負担になるのは、本人のせいではありません
うつ病や不安障害では、気分の落ち込み、不安、疲労感、不眠、食欲低下、集中困難などが続きます。本人は「休みたいのに休めない」「わかっているのに動けない」「迷惑をかけている」と感じやすく、普段なら励ましに聞こえる言葉も、病状によっては責められているように響くことがあります。
大切なのは、ご家族が完璧な対応を目指すことではありません。「本人の苦しさを否定しない」「大きな決断を急がせない」「治療や休養につながる選択肢を一緒に整理する」ことが、回復を支える土台になります。
避けたい7つの言葉と言い換え例
ご家族の言葉は、本人にとって大きな支えになります。一方で、良かれと思った一言が、本人の罪悪感や孤独感を強めてしまうこともあります。以下は「絶対に言ってはいけない」というより、病状がつらい時期には慎重に扱いたい言葉です。
| 避けたい言葉 | 負担になりやすい理由 | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 「頑張れ」 | すでに限界まで頑張っている方には、「もっと努力しなければ」と聞こえることがあります。 | 「今は休む時期だね」 「無理しなくていいよ」 |
| 「みんな辛いよ」 | 苦しさを比べられたように感じ、助けを求めにくくなることがあります。 | 「今、本当に辛いんだね」 「話してくれてありがとう」 |
| 「考えすぎ」 | 不安や落ち込みを本人の性格の問題として扱われたように感じやすい言葉です。 | 「不安が強いんだね」 「専門家に相談してみようか」 |
| 「薬に頼らないで」 | 必要な治療から遠ざかったり、自己判断で中断したりするきっかけになることがあります。 | 「薬のことは先生と相談しながら進めよう」 「不安な副作用は一緒にメモしよう」 |
| 「気分転換すれば?」 | 急性期には外出や旅行が負担になり、「楽しめない自分」を責めることがあります。 | 「家でゆっくりしていていいよ」 「動けそうな日に少し散歩しようか」 |
| 「仕事を辞めたら?」 | 症状が重い時期は判断力が落ちることがあり、退職など大きな決断は慎重に扱う必要があります。 | 「まず休職や相談窓口を確認しよう」 「大きな決断は回復してから考えよう」 |
| 「前は元気だったのに」 | 過去の自分と比べて、現在の自分を否定されたように感じることがあります。 | 「今のあなたも大切だよ」 「少しずつで大丈夫だよ」 |
抗うつ薬や抗不安薬の種類、必要性、副作用、減薬の進め方は、症状や体質によって異なります。ご家族の判断で服薬中止や減薬を促すことは避け、心配な点は主治医に相談してください。自己判断で急に中止すると、症状の再燃や中止後の不調につながることがあります。
安心につながりやすい声かけ5選
つらい時期のご本人には、正論や解決策よりも「否定されない安心感」が必要なことがあります。以下の言葉は、本人のペースを尊重しながら支えを伝えやすい声かけです。
① 「辛いんだね」
感情を否定せず、まず受け止める言葉です。「なぜそう思うの?」と詰める前に、「そう感じるほど大変なんだね」と確認するだけでも安心につながります。
② 「話してくれてありがとう」
本人が苦しさを口にしたときは、内容をすぐに修正するより、話せたこと自体を肯定するのが有効です。助けを求める行動を保ちやすくなります。
③ 「今日は休むことを優先しよう」
うつ病や不安障害では、休むことにも罪悪感を抱きやすくなります。ご家族が休養を認める言葉をかけることで、療養に入りやすくなります。
④ 「何か手伝えることはある?」
「全部やってあげる」ではなく、本人の選択を残す声かけです。「買い物」「予約」「食事の準備」など、選択肢を具体的にすると答えやすくなります。
⑤ 「一緒に整理しよう」
治療、休職、家事、金銭面などが重なると、本人だけでは考えられなくなることがあります。代わりに決めるのではなく、一緒に整理する姿勢が支えになります。
「受診をすすめたいけれど、どう切り出せばいいかわからない」
「家族としての関わり方を整理したい」
その段階から相談していただけます。
家族ができる具体的な支援の3ステップ
受診をすすめたいときの伝え方
本人が受診に抵抗を示す場合、「病気だから行きなさい」と押し切るより、「眠れていないのが心配」「不安が強い状態を一緒に整理してもらおう」と、困っている症状に焦点を当てると受け入れやすいことがあります。
声かけの例
- 「最近眠れていないのが心配だから、一度相談してみない?」
- 「診断を決めつけたいわけではなく、楽になる方法を一緒に探したい」
- 「初回だけ一緒に行くこともできるよ」
- 「本人が行きづらければ、まず家族だけで相談してみるね」
早めに相談したいサイン・緊急時の対応
「大げさかもしれない」と迷う場面ほど、安全側に判断することが大切です。主治医、精神科救急、地域の相談窓口、必要時は119番・110番を利用してください。
| 注意したいサイン | 対応の目安 |
|---|---|
| 「死にたい」「消えたい」「いなくなりたい」と話す | 否定せず受け止め、主治医や相談窓口に連絡。一人にしない工夫をします。 |
| 具体的な方法を調べる、手段を準備している | 緊急性があります。夜間・休日でも精神科救急、必要に応じて119番へ。 |
| ほとんど眠れない状態が続く、食事や水分が著しく取れない | 早めの受診が必要です。脱水や身体症状が強い場合は救急相談も検討します。 |
| 急に活動的になり、浪費・怒りっぽさ・睡眠減少が目立つ | 躁状態などの可能性もあります。早めに主治医へ状況を伝えてください。 |
| 幻聴・妄想が疑われる、現実との区別がつきにくい | 本人を責めず、安全を確保し、速やかに医療機関へ相談してください。 |
- 主治医・通院先:診察券やお薬手帳の連絡先を確認
- 精神科救急情報センター:「精神科救急 + 都道府県名」で地域の窓口を確認
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」:電話・SNS相談などの窓口を探せます
- 命に関わる切迫した状況:119番、危険が差し迫る場合は110番もためらわない
支えるご家族自身のケアも大切です
ご本人を支えるご家族は、「自分がしっかりしなければ」と抱え込みがちです。しかし、支える側が疲れ切ってしまうと、長く支援を続けることが難しくなります。ご家族自身にも、休む権利、相談する権利があります。
① 役割を一人で背負わない
親、配偶者、兄弟姉妹、職場、医療機関、福祉サービスなど、役割を分けて考えましょう。ご家族だけで治そうとする必要はありません。
② 家族だけの相談も活用する
本人が受診を拒む場合でも、ご家族だけで相談し、接し方や安全確認の方法を整理できることがあります。
③ 「完璧な声かけ」を目指さない
うまく言えない日があっても大丈夫です。大切なのは、本人を責めず、必要なときに専門家へつなぐ姿勢を保つことです。
よくあるご質問
Q1. 本人が受診を拒否しています。家族だけで相談できますか?
可能な場合があります。ご本人の状態、困っている言動、睡眠や食事の状況、危険サインの有無を整理して相談すると、次の関わり方を考えやすくなります。
Q2. 「死にたい」と言われたとき、どう返せばよいですか?
「そんなこと言わないで」と否定するより、「そう思うほど辛いんだね。今は一人にしないよ。先生に連絡しよう」と受け止め、安全確保と相談につなげてください。具体的な方法を話している場合は緊急対応が必要です。
Q3. 薬を飲みたがらないときは、家族が説得すべきですか?
無理に説得するより、「何が不安なのか」を聞き、副作用や依存への心配を主治医に相談できるよう支えるのがよいでしょう。服薬の開始・中止・変更は主治医と相談して進めます。
Q4. 休職と退職、どちらをすすめるべきですか?
症状が強い時期は大きな決断を急がないことが大切です。まずは主治医、産業医、人事担当者と相談し、休職制度や傷病手当金などの選択肢を確認しましょう。
Q5. 家族の私自身が疲れてきました。相談してもよいですか?
もちろん相談してよい状態です。ご家族が疲れ切る前に、医療機関、家族相談、地域の相談窓口、職場の相談制度などを利用してください。支える側のケアは、ご本人の回復環境を守ることにもつながります。
まとめ
うつ病や不安障害のご家族を支えるとき、最初から正解の言葉を言おうとしなくて大丈夫です。まずは、本人の苦しさを否定せず、「辛いんだね」「一緒に整理しよう」と伝えることが支えになります。
避けたいのは、「頑張れ」「考えすぎ」「薬に頼らないで」など、本人の努力不足や性格の問題として受け取られやすい言葉です。代わりに、休養、受診、生活支援、制度利用へつながる言葉を選びましょう。
そして、希死念慮、著しい不眠、食事や水分が取れない、躁状態が疑われる、幻聴・妄想があるといったサインがある場合は、早めに医療機関や公的窓口へ相談してください。ご家族だけで抱え込まず、専門家と一緒に安全な支援の形を整えていきましょう。
五反田ストレスケアクリニックでは、「薬を出して終わり」ではなく、患者さんが自分の力で歩き出せる状態を目指して伴走します。受診の切り出し方、休職や職場調整、産業医面談についてもご相談ください。
精神保健指定医/日本医師会認定産業医
産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)
健康経営アドバイザー
大学病院から民間病院まで幅広い臨床経験を持つ。「薬を出して終わり」ではなく、患者さんが自分の力で歩き出せる状態を目指す伴走型診療を大切にしている。わかりやすい情報提供を通じて、ご本人とご家族が孤立せず、適切な支援につながるきっかけを作りたいと考えている。
関連記事
参考文献
- 厚生労働省「こころの耳|ご家族の方へ」
https://kokoro.mhlw.go.jp/family/ - 厚生労働省「まもろうよ こころ」
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ - 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)の概要」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsu/seishin.html - 全国健康保険協会「傷病手当金」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/injury_and_sickness_allowance/index.html - 日本うつ病学会「ガイドライン検討委員会」
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/kibun.html - NICE. Depression in adults: treatment and management. NICE guideline NG222. 2022.
https://www.nice.org.uk/guidance/ng222 - Cipriani A, Furukawa TA, Salanti G, et al. Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder. Lancet. 2018;391(10128):1357-1366. doi:10.1016/S0140-6736(17)32802-7. PMID: 29477251.
- National Institute of Mental Health. Warning Signs of Suicide.
https://www.nimh.nih.gov/health/publications/warning-signs-of-suicide
本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断・治療を目的としたものではありません。症状や治療方針は個人によって異なります。気になる症状がある場合は、主治医または医療機関へご相談ください。自殺念慮、強い自傷他害のおそれ、著しい不眠・摂食不良、幻覚・妄想、躁状態が疑われる場合などは、救急医療機関、精神科救急、119番・110番、または公的相談窓口へ速やかに相談してください。